研究課題/領域番号 |
26288024
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 晃二 京都大学, 物質ー細胞統合システム拠点, 研究員 (00029274)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 再生可能有機ヒドリド / 2電子還元剤 / 2電子酸化剤 / プロトン移動と共役した電子移動 |
研究実績の概要 |
水中で[Ru(bpy)2(CO)2]2+(bpy = 2,2’-ジピリジル)のRu-CO基は水と可逆的かつ急速に反応してRu-COOHとRu-CO2基となり、3種の錯体は平衡系で存在している。これらの錯体の内、熱的にはRu-COOH錯体が最も不安定で100℃以上に加熱するとCO2を放出してRu-H結合を有するヒドリド錯体を生成し、水と反応してH2と Ru-OH2基を持つアクア錯体を与える。Ru-アクア錯体はCO加圧下では[Ru(bpy)2(CO)2]2+を再生することから、これらの錯体は水性ガス移動反応を高効率で触媒する。 水中では[Ru(pbn)2(CO)2]2+(pbn = 2-(2-ピリジル)ベンゾ[b]-1,5ナフチリジン)も Ru-COOH錯体とRu-CO2錯体との平衡系で存在する。Ru-bpy錯体と異なり、Ru-pbn錯体の平衡混合物をCO加圧下、加熱してもH2は発生せず、pbn配位子が2電子還元を受けた [Ru(pbnHH)2(CO)2]2+(pbnHH = 5,10-ジヒドロ-2-(2-ピリジル)ベンゾ[b]-1,5-ナフチリジン)とCO2が生成した。以上の結果は, Ru-pbn錯体の平衡混合物の熱反応によるCO2の放出はRu-COOH 錯体ではなく、Ru-CO2錯体からのCO2放出はpbn配位子の2電子還元反応と協奏的に起こり、[Ru(pbn)(pbnHH)(CO)(H2O)]2+と[Ru(pbn)(pbnHH)(CO)2]2+ を経由して[Ru(pbnHH)2(CO)2]2+が生成することで説明される。したがって、Ru-pbn錯体は光及び電気化学的還元のみならず、Ru-COの化学酸化と共役して2電子還元を受けてRu-pbnHHを生成することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光および電気化学的還元反応では、1電子移動によるラジカル中間体が形成され易い。特に、有機基の1電子還元や酸化は反応性の大きなラジカル種が形成され易く、選択分子変換の障害となっている、Ru-pbn錯体は可視光照射あるいは電気化学的還元反応で、副反応を伴うことなく、その配位子の2電子還元体を持つRu-pbnHH錯体が生成する。 平成27年度の研究でRu(pbn)(CO)錯体では、加熱が必要であるが、水との反応でカルボニル基の2電子酸化によるCO2発生とpbn配位子の2電子還元(pbnHH生成)が協奏的に起こることが明らかとなった。この事実は、pbnは光、電気エネルギーとともに、無機化合物の酸化と共役させて、選択的な2電子還元反応を起こさせることが可能になったことを示している。 pbnと類似の構造を有する1,10-フェナントロリン型の配位子bpp(benzo[b]pyrido[3,2-f][1,7]-phenanthroline)を有するRu-bpp 錯体はRu-pbn錯体に比べて、より大きなπ電子系を有し、リン光の量子収率は0.086で、犠牲試薬存在下では効率よく光2電子還元反応を受けてRu-bppHH 錯体を与える。同一の配位子を有するRu-pbnに比べてRu-bppの還元電位は0.5V程度マイナスの電位にシフトするが、二つの2電子還元体Ru-pbnHHとRu-bppHHの酸化電位はほぼ同一である。Ru-bppHHはH-供与能が小さくCO2の還元能は示さなかったが、Ru-bppHHの光励起状態から酸素分子のエネルギー移動により、ほぼ定量的にHOOHを与えた。
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今後の研究の推進方策 |
Ru-pbn錯体では、1光子励起で2電子還元反応が進行し、Ru-pbnHHを与え、Ru-pbnHHを塩基で処理することでヒドリド供与剤として機能し、二酸化炭素をギ酸に還元するが、定量的なギ酸生成ニ限られていることから、Ru-pbnHH錯体が2電子供与剤として使用するためには、より温和な条件下での還元的活性化を見いだすことが必要である。 Ru-pbnの類似体Ru-bppは、還元電位がRu-pbnに比べて0.5V程、負側の電位にあり、2電子還元体Ru-pbnHHとRu-bppHHの酸化電位は、ほぼ同一であった。外圏的電子移動では両者に差異は認められないのに対して、Ru-pbnHHはヒドリド供与性をもち、同一条件でRu-bppHHのヒドリド供与能が観測されない。際だった二つの配位子の相違を明らかにして、より高効率の再生可能有機ヒドリド試薬を設計することが必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年7月に錯体合成に優れた能力を発揮していた研究支援者が、他の研究場所に転出したために、新規錯体触媒合成に遅れを生じたために、従来の錯体触媒を用いて、新規反応系の開発を行った。幸いなことに、その研究を通して、学術的には大きな進展が得られた。4月からは、これまでの知見を基礎ととして、新規錯体触媒の合成を行うための、新たな研究支援者を確保する。
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次年度使用額の使用計画 |
新規の機能性錯体合成の進展には、障害が出たが、従来の触媒を用いて、新たな反応系の開発に向けて、詳細な反応条件の検討を行い、機能性錯体合成の設計指針を再検討し、必要条件の絞り込みを行う。これらの検討の上に立って、、合目的な置換基の導入を遂行できる人材の確保を最優先で行う。
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