本研究では、電荷注入の手法として接触型ドーピングという新しい機能設計方法を提案している。接触による界面での電子のやり取りの結果、電荷注入のみが起こる場合と、分子性錯体が形成される場合がある。母体結晶として、π共役系分子の単結晶とし、接触によってどのような電子状態変調、界面構造変化が起こるかを調べることを目的としている。 28年度は以下の3種の母体結晶群、(i)電子受容体単成分結晶、(ii)電子供与体が弱い中性基底状態の電荷移動錯体、(iii)アニオンラジカル塩結晶を対象に、ドーピング実験A:母体結晶、接触物質ともに単結晶状態、B:接触物質は粉末(あるいは蒸気)を行った。 (i)については蒸気圧が充分低い組み合わせ、つまり界面での純粋な電子のやり取りのみが起こる系について輸送特性と電子構造や接触状態の詳細を調べた。母体結晶をTCNQ誘導体に固定し、接触物質に電子供与性が異なる数種のドナー単結晶を用いた結果、電子供与性が弱くキャリアドープが起こらないと予想される組み合わせでも伝導度の増加とバンド的な伝導挙動が現れることが見出された。 母体結晶(ii)については、電子供与性は相対的に弱いが、幅広い酸化還元電位を持つ多環芳香族炭化水素を用い、中性の基底状態をもつTCNQ錯体を母体結晶として、TTF蒸気と接触させることで単結晶表面にTTF-TCNQ錯体結晶が成長する系について詳細に調べた。生成するTTF-TCNQ錯体はナノサイズの針状結晶となるが、母体結晶中の芳香族炭化水素の電子供与性が弱まるに従って、高秩序に針状結晶が配列した薄膜が形成されることが分かった。 (iii)については分離積層構造のTCNQアニオンラジカル塩にF4TCNQを接触させることで、Peierls型の絶縁体状態に初めてのホールドーピングを行った。その結果、Mott絶縁体への転移が抑えられることが見出された。
|