研究課題/領域番号 |
26288032
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
山路 稔 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (20220361)
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研究分担者 |
岡本 秀毅 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30204043)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機超伝導体 / 有機半導体 / 光縮環反応 / 有機青色発光体 |
研究実績の概要 |
我々は光を照射するだけで多環芳香族化合物であるピセンを簡便かつ高純度に合成する方法を見いだしている。通常の有機合成では作成が艱難な縮環化合物も光反応を用いれば作成の可能性があり、これによって創製された化合物が新しい物理・化学物性を発現する事が期待される。光反応で単一的に作成可能な縮環化合物は、ベンゼン環がジグザグに配列したフェナセン類である。ベンゼン環数が6以上のフェナセンを光縮環法で作成する場合、基本的にベンゼン環数が3-5個であるフェナセン誘導体(本研究では基本ユニットと呼ぶ)を組み合わせて作成しなければならない。このため高次フェナセンを効率良く作成するためには、大量の基本ユニットを準備する必要がある。基本ユニットはこれまでのバッジ処理による光縮環では効率が約50%である事が問題であった。平成26年度はこの基本ユニット作成効率の向上のため、マイクロ流路光反応装置を作成し、作成効率を100%近くまで向上させることに成功した。 フェナセンはジグザグに配列したベンゼン環による分子構造のため、光、熱、水分、酸素当の外部因子に対して、化学的に安定である事が分かってきた。このジグザグ構造を他の分子の一部に組み込むことにより、その分子が外部因子の対して堅牢性を示すかどうかを、平成26年度は試みた。クマリンは置換基を導入する事でケイ光性を発現する事が知られているが、発光デバイスとして用いると化学的に不安定である事が問題であった。そこで、クマリンに基本ユニットを組み込むことにより、外部因子に堅牢性を示す青色発光分子の作成及び物性を検討した。ベンゼン環数が増加するほどケイ光の量子収率は向上した。これはフェナセン分子骨格導入により、ケイ光過程と競合する無放射過程が抑制されるためである事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高次縮環化合物を光反応で作成する第一過程では、基本ユニットと呼ばれるベンゼン環数が3-5個であるフェナセン誘導体(それぞれフェナントレン、クリセン、ピセン)を大量に準備しなくてはならない。第二過程ではこれら基本ユニットを組み合わせて光反応前駆体を準備し、それを光反応により縮環する過程が最終段階である。これらの過程を効率良く推進させるためには、基本ユニットの作成を効率良く行わなければ成らない。この問題を解決するために、我々はマイクロ流路光反応装置を設計・実際に装置を作成し、基本ユニット作成のための光反応効率を向上させる行程を開拓した。従来のバッチ光照射法では、光照射により生成した基本ユニットが過剰な光照射により分解するために収率の低下を招いていた。この方法による1-メチルフェナントレンの従来の光環化収率は約60%であった。マイクロ流路光反応装置を用いる事により1-メチルフェナントレンの光環化収率は98%まで向上した。収率向上の要因として、マイクロ流路光反応装置では送液ポンプを用いる事で主たる光反応が終了する光照射時間が制御可能なため、生成した基本ユニットの光分解が抑制可能であると考えられる。基本ユニットの作成がマイクロ流路光反応装置の完成により捗ったため、研究計画にあったフェナセン骨格を有する縮環クマリン分子の創製を予定通り行う事が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロ流路光反応装置を稼働させることが可能になったため、今後は高効率で光縮環反応を行う事が期待できる。従来のバッチ法では作成が困難であった複数の縮環可能な部位を持つ光反応前駆体を、マイクロ流路光反応装置を使うことにより分子内で効率良く複数の縮環反応を推進させ、これまで作成が困難であった2次元縮環化合物の創製を推進する予定である。一方、炭素と水素以外の元素を含む化合物の縮環体の光反応による作成の可能性を検討し、作成できた化合物の物性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マイクロ流路光反応装置を完成・稼働させたところ、従来50%程度であった反応収率が、100%近くまで向上したため、消耗品の溶媒や試薬の使用料を大幅に削減することができたことが大きいと思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
基本ユニットの作成時間の短縮化と高次フェナセン作成の効率向上を目的として、マイクロ流路光反応装置をもう一系統作成する。このことにより、更なる経費削減を行い、効率的な研究推進と経費使用を執行する。
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