研究課題/領域番号 |
26288035
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢持 秀起 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20182660)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子性導体 / 分子性固体 / 強電子相関系 / 結晶工学 |
研究実績の概要 |
多重不安定性物質(EDO-TTF)2PF6の相転移挙動について、前年度に引続きドナー分子の一部をメチル置換誘導体で置換えた混晶の相転移挙動の解析を継続した。また、同形構造を持ち金属-絶縁体転移温度が低いSbF6錯体について、昨年度時間分解分光によるパルス光励起後の挙動・電子構造変化を調査したが、今年度は時間分解電子線回折実験により結晶構造変化を検討し実験結果を解析しつつある。母物質(PF6錯体)では低温相をパルス光励起すると10ピコ秒桁の寿命を持つ中間状態を経て100ピコ秒桁の時間内に高温相へと変化するが、SbF6錯体では分光学実験からいつまでも中間状態にとどまるとの結果が得られていた。今回の時間分解結晶構造解析の結果からは、パルス光励起により母物質で見られた結晶構造変化(分子変位)が部分的にしか起きていないことが推測された。 閉殻陰イオン部位を含むTTF誘導体として、前年度、カルボン酸残基4個を持ちふたつのプロトンが電離した[TTF(CO2)4H2] (-2価イオン)を用いて第二のドナー分子(テトラメチルTTF, およびオクタメチレンTTF)との錯体を得た。本年度はその結晶構造と電子状態を解析し、電荷秩序状態にあることが分かった。また、錯体作成過程で懸念されていた電解合成条件下での[TTF(CO2)4H2](2-)の分解反応は実際に起きており、オクタメチレンTTFとの錯体については、生成した母核TTFが錯体に取り込まれることも見出された。結晶構造と電子構造の解析を進行中であり、カルボキシル基酸素との分子間接触により第二のドナー分子のイオン化が促進されることを明らかにしつつある。 これらと並行して検討しているやや大きいπ共役系を用いた物質群についても、負電荷を帯びた金属フタロシアニンの錯体など新規な物質を得、電荷とスピン状態が連動して変化する現象を見出すなどの成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子相転移に関して新規機構を発現させることは分子性物質の機能性を引出し、遍歴電子系の基礎科学を進展させ、同時に相転移に伴う物性変化を利用した応用技術の基礎を与える課題である。 この研究目的の達成に向け、本研究課題申請書に記した研究計画に沿って多重不安定性物質の相転移挙動の実験的検討と閉殻陰イオン部位を含むTTF誘導体を用いた新規錯体の開拓を遂行している。前者については、物質合成と結晶構造解析はほぼ完了してるが、それらの結果から誤差を考慮した数値データの処理に多大な時間が必要であり、解析作業を継続して行っている。また、対イオンの嵩高さが異なる同形錯体のパルス光照射に対する応答の差異を時間分解分光・構造解析の両面から検討し、母物質と際立った違いがある事を見出している。 陰イオン部位を持つTTF誘導体の検討では、4個のカルボキシレート基を持つTTF誘導体を用いることにより、電荷秩序状態にある錯体を得ている。現段階では相転移・外部刺激応答については実質的に未検討であるが、他の電荷秩序物質で見らた非線形応答などを考慮すると、本研究で得られた錯体についても外部刺激への応答が期待される。また、ここで一般性が見出された陰イオン部位を持つドナー分子を用いた錯体作製方法を展開することにより、多様な結晶構造と電子物性を持つ物質の開拓が行えると期待される。 より大きなπ共役系を用いた検討においても、その例が少ない金属フタロシアニンの陰イオンなどを用い新規物質を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
主課題の第一である多重不安定性物質の相転移挙動について、混晶化により母物質では見られなかった高温相から低温相に移る中間で単離される状態の解析を継続する。 第二の課題である陰イオン部位を持つドナー分子と第二のドナー分子の錯体生成による新規電子状態の開拓については、引続き陰イオン部位を持つTTF誘導体を第一成分とした錯体開拓を行う。 他のπ共役分子を用いた電荷移動錯体についても、新規相転移機構の発現を目指して錯体開拓を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度以来の報告書にも記した通り、研究計画書で申請した研究経費に対して交付決定額が少なく、申請設備備品を購入できず研究遂行が危ぶまれました。幸いにして申請していた備品(質量分析計)を研究代表者所属機関にて別途利用できるようになり、本研究課題を開始しました。また、2年度目以降も申請額に対して交付内定額は少なく、当初予定の設備遺品費を購入しなかったことによる余剰分を基金として毎年度の物品費・旅費に充てることとしました。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度も研究計画調書通りの研究費を確保することは出来なかったのですが、基金分を用いて出来る限り当初予定に近い物品費・旅費等を確保し研究を推進します。
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備考 |
発表論文リスト、および2005年以降の学会発表一覧は下記URLにてpdf形式で上付/下付文字や特殊文字を含め、見やすい形で公開しています。 http://mms.ltm.kyoto-u.ac.jp/yamochi/list_pub.pdf http://mms.ltm.kyoto-u.ac.jp/yamochi/list_presen.pdf
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