研究課題/領域番号 |
26288037
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大久保 敬 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任教授 (00379140)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 近赤外 / 色素増感型太陽電池 / フラーレン / π-π相互作用 / 電子移動 / レーザーフラッシュフォトリシス / 光反応 / 超分子 |
研究実績の概要 |
優れた電子アクセプターであるLi+@C60はカチオン性フラーレンであるので、極性溶媒中でもアニオン性電子ドナーと相互作用する。実際にLi+@C60と近赤外域に光吸収をするクロリン誘導体あるいはフタロシアニン誘導体をベンゾニトリル中で混合することにより、イオン間相互作用およびπ-π相互作用によって極性溶媒中でも安定な超分子を構築することが出来た。またポルフィリン部位を光励起すると、ポルフィリンからLi+@C60への超分子内光誘起電荷分離が進行することを見いだした。 電荷分離寿命の長い超分子を太陽電池の電極に担持した場合、電極との電子授受を効率的に行い高いエネルギー変換効率を与えた。実際の作成では、前述のアニオン性ポルフィリン/Li+@C60超分子を貧溶媒に混合し得られるナノ粒子を電極上に電解担持した。この電極を用いて色素増感太陽電池を作成し、各波長での量子効率を測定したところ、全ての波長域で参照のものと比べ非常に高い量子収率を示した。これは超分子形成とナノ粒子化によって新たな吸収帯が生じたためである。またこの色素増感太陽電池のエネルギー変換効率は2.1 %であった。以前報告されていた、中性のポルフィリン・C60で構成された同様の系の太陽電池のエネルギー変換効率は0.03 %であり、リチウムイオン内包フラーレンを用いることにより約70倍のエネルギー変換効率を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の計画は、カチオン性Li+@C60の電子供与体となるアニオン性のポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、フタロシアニンの合成を行い、Li+@C60との超分子錯体の錯形成などの評価を行った。合成した化合物をベンゾニトリル溶液に溶かし、そこにLi+@C60を添加し、超分子形成を評価する。具体的には、UV-visや発光スペクトルのタイトレーション測定やJob'sプロットなどを行い、錯形成定数を決定した。密度汎関数計算を行い、HOMOおよびLUMOの分布を調べた。電気化学測定(CV、DPV)などで、酸化還元電位を決定し、電荷分離エネルギーを決定する。この値と、発光と吸収スペクトルから求められる、励起エネルギーより自由エネルギー変化を算出し、光電子移動が可能かどうか検証する。光電子移動反応のダイナミクスは、フェムト秒またはナノ秒時間分解レーザーフラッシュ過渡分光測定、フェムト秒時間分解蛍光寿命測定により観測し、反応中間体などの検出および速度を決定した。その結果、数100マイクロ秒の電荷分離寿命が観測された。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定通り、色素増感太陽電池の作製・評価を行う予定である。具体的な方法は、超分子錯体を高濃度で含むベンゾニトリル溶液をアセトニトリルなどの貧溶媒にシリンジで注入し、超分子クラスターを形成する。このクラスターを電気泳動法で透明電極上に電着し色素担持電極を作製する。クラスターの物性評価は透過型電子顕微鏡(TEM)測定や動的光散乱(DLS)測定で行う。次に、疑似太陽光照射装置などを用いて、光電変換特性について詳細に調べる。IPCEやエネルギー変換効率などを太陽電池の基礎的な物理化学パラメーターを決定する。超分子クラスター中の光電荷分離の検出はナノ秒レーザーフラッシュ拡散反射式時間分解過渡吸収測定および時間分解ESR測定(いずれも現有設備を使用可能)で行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
高価なリチウムイオン内包フラーレンやフタロシアニン合成の前駆体の購入を見込んでいたが、予想していたよりも効率のいい合成が見つかったので、当初見込額よりも試薬代金を大きく減らすことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
デバイス合成のためには多くの試薬、ガラス器具の購入が見込まれるので平成26年度で余った研究費を用いて、さらに研究を加速させたい。また、デバイス作製についても様々な材料の購入が見込まれる。
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