研究課題
現在もっともホットな研究対象の一つであるグラフェンのモデル研究として、構造の明確な、分子として扱うことが可能な“グラフェン性”を示す化合物「ナノグラフェン」の科学を探究している。ナフタレン置換ピレンを合成し、強力な酸化条件による縮環反応により、これまで全く合成例のないペリペンタセンをテトラベンゾ体として初めて単離することに成功した。単結晶の作成にも成功し、小さい骨格ながら既に「ナノグラファイト」様の重なり方を示していることを明らかにした。溶液の蛍光発光(Φ=37%)、異様に小さいストークスシフト(~10 cm^-1)などの特長があるが、電気化学測定において5電子の可逆な酸化波を観測できたことは特筆に値する。また、ピレンの修飾位置を調整し、4,5-ジブロモ9,10-ジアルコキシピレンからわずか2ステップでsp2炭素48個からなる分子性ナノグラフェンの合成に成功した。結晶構造を確認したところ、π平面がカラム状をなし、トランスファー積分も十分大きい状態であった。そこで固体中でフラーレンC60と錯体を形成させようと共結晶の作成を試みた。幸運にも単結晶が得られ、解析したところ、予想に反してナノグラフェン分子とフラーレンが相分離し、交互貫入型の構造をとっていた。ドナーのみ、アクセプターのみが積層するというエントロピー的には一見不利な会合体が形成できたことは面白い。光発生キャリアーとキャリアー伝達に優れた構造をしているのではないかと考え、TRMC法で電荷移動度を見積もったところ、ΦΣμが6.0 x 10^-2 cm^2V-1s^-1 と有機物としては非常に大きい値であった。さらにフラーレンC70との共結晶を作成したところ、C60とほとんど同じ格子定数を示す単結晶が得られた。フラーレンのサイズの違いによる物性の変化を調べる予定でいる。更にペリレンの対面型2量体及び3量体の合成に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
もともとの研究計画によって進めていた縮環ピレン3量体とテトラベンゾペリペンタセンの合成と物性探索に加えて、あらたに1,8-ナフタレン架橋ペリレン2量体および3量体の合成に成功し、それぞれの単結晶を得ることにも成功した。その結晶構造からは共有結合で構成された初めての分子性グラファイトとも呼べる分子の姿を見ることができた。これまでの分子性グラフェンの科学に加え、今後新しく分子性グラファイトの科学を展開することが、世界に先駆けて可能となる。
もともとの研究計画にあるように、「分子性酸化グラフェン」、含硫黄オリゴアセン、含硫黄グラフェンの合成に挑戦する。これに加えて「分子性グラファイト」の科学を展開し、インターカレーションやエキサイマー特性について精査する。今後も化合物の同定に可能な限りX線単結晶構造解析を利用し、原子レベルで明確な議論を心掛ける。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 8件、 査読あり 13件、 謝辞記載あり 12件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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