研究課題/領域番号 |
26288041
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
岡田 惠次 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (50152301)
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研究分担者 |
野崎 浩一 富山大学, 大学院理工学研究部, 教授 (20212128)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ラジカル / 金属 / 酸化還元 / クロスカップリング / 電荷分離 |
研究実績の概要 |
ニトロニルニトロキシド(NN)の2位炭素アニオンが金属イオンに配位した錯体は、これまで水銀錯体が報告されているのみであった。申請者らは2012年に白金錯体を合成し、水銀錯体とは異なり、NN部の酸化電位が通常のNNと比べ0.6 Vも低下することを明らかとしている。申請者はこれらの錯体をラジカルメタロイドと名付け、金属イオンを幅広く検討し、酸化電位の低下のメカニズムとこれらのラジカル-金属複合体の物性機能開発を行うこととした。 金属(M)として金、銀、銅の1価イオンをもつニトロニルニトロキシド(NN)-M-ジホスフィン錯体を合成し白金錯体を凌駕する酸化電位の低下を見出した。さらに、その原因がNNのC2炭素の電荷の大きさと相関することを明らかにした。また、Pd(NN)2錯体においても白金錯体とほぼ同様な酸化電位のシフトを観測した。またラジカルメタロイドの研究の一環として、Pd(0)触媒の存在下で、NN-Au-PPh3錯体がAr-Iとクロスカップリング反応を起こし、Ar-NNを高収率で与えることを明らかにした。また強相関ジラジカル種を用いる金属錯体の磁性についてロシアのグループと共同研究を行った。 「有機金属錯体のスピン軌道相互作用を利用する長寿命光電荷分離状態の生成と応用」に関しては、新規なジアニシルアミン-銅錯体-ナフタルジイミドの三連結体を合成し、銅ジホスフィンアセチリド錯体の光励起により、長寿命電荷分離状態の発生に成功した。また、金属錯体増感との対比の観点から、純有機カルボニル化合物のスピン軌道相互作用を用いて、長寿命電荷分離状態を発生させ、比較検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度、「ラジカルメタロイドの創製と機能」では、ジホスフィン配位子を用いてNNのC2アニオンが配位した金、銀、銅錯体を合成し、NN部の酸化電位に及ぼす金属イオンの効果を検討した。その結果、NN部の酸化電位の低下(実験値)は金属に直結するNNのC2位の負電荷(計算値)と良く相関することを明らかにした。これらの研究の途中に、NN-Au-PPh3を、Pd(0)触媒存在下、ヨウ化アリール(Ar-I)と反応させると、効率良くクロスカップリング生成物Ar-NNを生成することを見出した。また、コンパクトな室温三重項ニトロキシドジラジカルを用いて磁性金属錯体を合成しその性質を明らかにした。今後、分子間で金属-金属接触を示すスピントロニクス素子として応用可能な金属錯体を開発する予定である。 「有機金属錯体のスピン軌道相互作用を利用する長寿命光電荷分離状態の生成と応用」では、新規なジアニシルアミン-銅錯体-ナフタルジイミドの三連結体を合成し長寿命電荷分離状態の生成を観測した。金属スピンとの対比の観点から、有機カルボニル化合物のスピン軌道相互作用を用いた場合でも長寿命電荷分離状態が発生することを示した。 このように、平成26年度は、1)ラジカルメタロイドの酸化電位の低下のメカニズムの解明、2)NN導入のためのクロスカップリング試薬の開発、3)コンパクトなニトロキシドジラジカルと磁性金属錯体の合成と性質の解明、4)銅錯体ならびに非金属カルボニル化合物を増感剤とする長寿命電荷分離状態の発生に成功している。一方、ラジカルメタロイドの研究において、分子間の金属-金属接触を持つような錯体は未だ見い出せておらず、これらを総合的に考えて自己評価は80点程度と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「ラジカルメタロイドの創製と機能」に関して、NN-Au-PPh3に替わる安価な銅錯体クロスカップリング試薬を開発する。その反応を適用することにより、NNを種々のπ電子系化合物に導入することを検討し、ラジカル置換ラジカルイオン種の開発を目指す。また、ラジカルメタロイドのラジカル部ならびに配位子部を平面性の高いものに置き換えることも検討する。分子間で金属-金属間接触を示す金属メタロイドを幅広く探索する。 「有機金属錯体のスピン軌道相互作用を利用する長寿命光電荷分離状態の生成と応用」では、可視部の吸収を高強度化、長波長化することのできる系として白金ポルフィリン錯体を導入した系を合成し、その光電荷分離を検討する。
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