研究課題/領域番号 |
26288046
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
波多野 学 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20362270)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 不斉触媒反応 / 分子包接効果 / キラル超分子 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
生体酵素に匹敵する高度な機能性人工触媒を小分子レベルで自在に創製するには、従来の有機合成の触媒設計の切り口を変える必要がある。従来の静的な単一分子触媒の限界を乗り越えるために、本研究では複数の小分子に酸点と塩基点を適切に配置し、酸・塩基の配座柔軟かつ動的な親和性相互作用を駆動源とするキラル超分子触媒を創製する。従来の単一分子触媒には不向きな分子包接効果の発現を鍵とした高次不斉触媒反応の開発を目指す。「限りなく反応効率を高める」または「合成不可能を可能にする」立体配座柔軟性キラル超分子触媒の創製とそれを用いた不斉触媒反応の開発を行うことが、本研究の目的である。 具体的に、本研究では従来の単一分子触媒よりも遥かにシンプルな小分子パーツから成るキラル超分子触媒を開発する。基質一般性が広く効率の高い実用的な不斉触媒反応を開発するほか、単一分子触媒では実現が困難な分子包接効果による基質選択性や、位置および立体選択性を発現するテーラーメイド触媒による高次選択的不斉触媒反応を開発する。具体的には、(1)ブレンステッド酸・ブレンステッド塩基複合触媒、(2)ルイス酸・ルイス塩基複合触媒、(3)ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒、(4)ルイス酸・ブレンステッド塩基複合触媒、の4種類にタイプ分けして、システマティックにそれぞれの触媒に順応した不斉触媒反応を開発している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(3)ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒の開発 リン酸はブレンステッド酸であると同時に共役構造のP=O部位がルイス塩基としての性質を持っている。従って、このルイス塩基部位に適切なルイス酸を作用させれば、H+酸周辺に嵩高い立体効果を与えるとともに共役構造を介してH+酸部位を活性化できると考えた。従来のリン酸触媒は、塩基性の強いイミンの活性化を得意とするが、相対的に塩基性の弱いカルボニル化合物には適用困難だった。それとは対照的に、研究代表者のルイス酸複合型キラルリン酸触媒はキラルリン酸とルイス酸を混ぜるだけの簡便な操作でin situで調製でき、触媒最適化も迅速に行うことができた。 本触媒を用いて、アルデヒド、エステルを用いる不斉Diels-Alder反応を検討した。その結果、MacMillan触媒では適用不可能なα置換アクロレインやα置換アクリル酸エステルにも適用可能であった(最高99% ee)。塩基性部位を持ち、酸触媒では失活が起きてしまうためジヒドロピリジンは、これまでほとんど開拓されていないをジエノフィルである。幸運にも本触媒はジヒドロピリジンにも適用可能であり、多点配位を伴う柔らかい超分子触媒の反応場の長所を活かして、これまでの触媒では不可能だった不斉Diels-Alder反応を開発できた。反応場は理論計算化学を用いてその構造解析を行った。また、得られた生成物をもとに、アロカサランチンやイボガミンなどの光学活性アルカロイドの高効率合成にも成功し、アメリカ化学会誌(JACS)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、従来の単一分子触媒よりも遥かにシンプルな小分子パーツから成るキラル超分子触媒を開発する。基質一般性が広く効率の高い実用的な不斉触媒反応を開発するほか、単一分子触媒では実現が困難な分子包接効果による基質選択性や、位置および立体選択性を発現するテーラーメイド触媒による高次選択的不斉触媒反応を開発する。今年度は、前年以前の項目に合わせて、項目(4)「ルイス酸・ブレンステッド塩基複合触媒」も重点開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒の開発において、目的とする不斉ディールス・アルダー反応での成果を追求する予定であった。ところが、一部の基質を用いると、副反応として新たに不斉ヘテロ・ディールス・アルダー反応が極めて高いエナンチオ選択性で起きることを見出した。本反応を主反応に格上げするべく、当初の予定のない時間をかけて一次的に立ち止まり、徹底的な解明を行うための研究を遂行した。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は、上記の問題が解決され次第、予定通り研究を再開する。研究遂行に必要な有機試薬、溶媒を中心とする消耗品に充当する予定である。
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