研究課題/領域番号 |
26288048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大村 智通 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00378803)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不斉化学合成 / 合成化学 / 有機ホウ素化合物 / 遷移金属触媒 / 触媒的分子変換 |
研究実績の概要 |
医薬品開発や機能性材料開発で必要とされる光学活性キラル分子群を効率よく得るための合成方法論創出を目的として、立体化学を高度に制御し高効率で不斉中心を構築する触媒的新手法の開発に取り組んでいる。平成27年度は、交付申請書研究実施計画に記載した「研究項目3.「ジメチルシラン型」および「イソプロピル型」基質の触媒的sp3炭素-水素結合ホウ素化:エナンチオ選択的触媒系の開発(戦略1)」、ならびに「研究項目6.α-分岐型アルキルホウ素反応剤の銅へのトランスメタル化を鍵とする触媒的炭素-炭素結合形成反応の開発(戦略2)」を中心に検討を行った。 研究項目3では、ジアステレオ選択的なC-Hボリル化を検討し、ホウ素上および基質中の不斉環境が及ぼす効果について明らかとした。また、高い触媒活性を誘起する配位子構造や添加剤、溶媒について基盤的知見を得た。さらに、二つの酸素官能基をケイ素上に有する有機ケイ素化合物が顕著な反応性を示すことを見出した。これらの知見はエナンチオ選択的C-Hボリル化の実現に資すると考えられる。 研究項目6では、α位に窒素官能基を有するベンジルホウ素反応剤を用い、銅触媒の存在下アクリル酸エステルへの共役付加反応、ならびに臭化アリルとのカップリング反応を検討した。アルカリ金属アルコキシドの共存下で検討を行ったところ、窒素上に水素もしくはアセチル基が置換している場合には、脱プロトン化が優先してしまうことが明らかとなった。これを踏まえた検討の結果、脱プロトン化が起こらないベンゾイル(メチル)アミノ基が有効であり、またこの置換基をα位に有するベンジルホウ素反応剤は、銅触媒を用いなくても臭化アリルとのカップリングが効率よく進行することを見出した。本成果は有機ホウ素化合物の化学における新知見であり、立体的に混み合ったsp3炭素上での効率的炭素-炭素結合形成法の確立に資すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究遂行により、C-Hボリル化に特に高い反応性を示す「ジメチルシラン型」基質として、ジアルコキシシランおよびポリシロキサンを新たに見出すことができた。また、α位に窒素官能基を有するアルキルホウ素化合物の活性化に、アルカリ金属アルコキシドが有効であることを初めて明らかとした。これらの研究成果は平成28年度の研究遂行に資するものであり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
戦略1(エナンチオ選択的炭素-水素結合官能基化)では、反応点近傍に不斉炭素もしくは不斉ケイ素中心を有する基質のジアステレオ選択的C-Hボリル化をさらに掘り下げて検討するとともに、立体的に混み合いより変換が困難と考えられる「メチレン」のC-Hホウ素化に取り組み、高活性な触媒系の開発を推進することにより、エナンチオ選択的な反応の実現に繋がる基盤的知見を蓄積する。戦略2(立体特異的炭素-炭素結合形成)では、今年度の研究遂行により見出した「アルカリ金属アルコキシドによるホウ素反応剤の活性化」の展開を図り、有効なホウ素反応剤構造と基質適用範囲を明らかにするとともに、不斉転写を伴う炭素―炭素結合形成への応用について知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
戦略2の遂行で必要不可欠なフーリエ変換型赤外分光光度計の更新が必要となった。また、戦略1および2の遂行において、試薬や高圧ガス、遷移金属触媒などの消耗品が当初の予定よりも多く必要となった。このため、当初予定していた、キラル分子の鏡像異性体過剰率の分析効率向上を目的としたクロマトグラフィーシステムの導入を中止し、先に挙げた物品の購入を優先した。総額はクロマトグラフィーシステムの購入予定額には達しなかったため、次年度使用額が生じた。なお、分析を要するキラル分子の想定サンプル数は、現有のクロマトグラフィーシステムの処理能力範囲内であり、本研究課題の遂行に支障はない。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度も試薬や高圧ガス、遷移金属触媒などの消耗品が多く必要になると予想されることから、これらの購入に充てる。
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