最終年度である平成28年度には、研究の対象を温度に依存して水和数が変化する「感温性高分子」とそのモノマーやダイマー等の水溶液にも拡張した。研究の手法は、平成27年度に行ったものとほぼ同様で、調整した水溶液に対する50GHzまでの、或いはTHz域までの広帯域誘電スペクトル測定を様々な温度で行った。幾つかの高分子は、温度に依存して水和数を明瞭に減少させ、最終的には溶解性を無くして白濁化、場合によってはゲル化した。 高分子物質のなかでもポリエチレンエチレングリコールは、低温域においてモノマー当り4個程度の水和水を有し、その水和寿命が25ピコ秒程度であることが既に知られているので、水和現象を議論するには好都合な高分子である。ポリエチレンエチレングリコールの水溶液には、水和水と自由水が濃度に依存した分率で存在し、その分子運動が観測されると期待される。濃度を変化させながらTHz域までの誘電スペクトルを観測すると、確かに自由水中で0.2ピコ秒程度に観測される(水素結合を形成していない)ダングリング水酸基をもつ水分子の運動モードが減少した。その一方、高分子に水和した水分子のダンクリング水酸基の運動に相当すると考えられる1ピコ秒程度の緩和が強度を徐々に増すことが明らかになった。 一方、中間親水性に分類される、水中には溶解するものの水和水をもたない(ニトロメタンなどの)物質では、水和水のダングリング水酸基の運動に相当する1ピコ秒程度の誘電緩和が全く観測されなたっか。これらの事実から、溶質分子に水和している水分子のダイナミックスの特徴が幾らか明らかになったと結論付けられる。 得られた研究成果は既に順次国内外の学会で発表し、国際的科学雑誌に論文として投稿準備中である。
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