研究課題/領域番号 |
26288056
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
芹澤 武 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (30284904)
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研究分担者 |
澤田 敏樹 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20581078)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セルロース / ナノシート / 加水分解活性 |
研究実績の概要 |
前年度にセルロースナノシート(CNS)を超音波照射により機械的に処理し微細化することにより、エステル結合を有する低分子モデル基質に対する加水分解活性を大幅に向上できることが分かった。本年度はまず、同基質を用いて、微細化CNSの加水分解活性に及ぼす反応条件の効果を検討した。反応温度を変化させた結果、より低温で高い活性を示すことが分かった。低温においてセルロースの水酸基がより活性化されていることや、高温下ではCNSが凝集し、見かけ上、活性が低下することなどが示唆された。一方、反応溶液のpHを変化させた結果、酸性条件下で活性を失うことが分かった。プロトン濃度の上昇に伴って、セルロース分子中の水酸基の求核性が低下することが示唆された。このように、CNSが示す加水分解活性の機構について、さらなる知見を得た。 微細化CNSの再利用性について検討するために、加水分解実験後にそれらを回収することを試みたが、微細化CNSの水分散性の高さや濃度の低さから、回収は困難であった。一方、超音波処理により微細化できているCNSは全体の2%程度であった。そこで、同一のCNSを繰り返し超音波処理し、得られた微細化成分の加水分解活性をその都度、評価した。その結果、10回に渡り活性な微細化成分を調製することができ、4回目までは同様の活性を示した。このように、CNSを触媒材料として有効利用するための指針を得た。 微細化CNSを用いて、リン酸エステル結合およびアミド結合を有する低分子モデル基質の加水分解反応について検討した。その結果、前者に対しては小さいながらも活性を示したものの、後者に対してはほとんど活性を示さないことが分かった。エステル基質と比較していずれの基質も反応時間が長いため、その間に微細化CNSが凝集し、活性を失ったことによると考えられる。このように、CNSはエステル結合に対して所定の加水分解活性を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成セルロースナノシートがリン酸エステルやアミド結合を有する基質に対しては十分な加水分解活性を示さなかったため、生物試料の適用には至らなかったものの、セルロースナノシートの加水分解触媒としての特性の理解がさらに深まり、また触媒材料として有用利用するためのさらなる知見を見出すこともできたため、おおむね予定通りに研究が進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
さまざまな基質の加水分解反応に適用できるように、高い活性が持続できるセルロースナノシートの分散液を調製する手法を検討する必要がある。具体的には微細化セルロースナノシートの濃縮や水溶性高分子の添加による分散安定化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成セルロースナノシートが示す加水分解触媒としての特性を解明するために、加水分解する基質の種類を変えることで、基質の適用範囲について整理しているところであるが、引き続き実験を繰り返すことで再現性を確認し、信頼性のあるデータを取得するとともに、それらを学会や論文等で発表するために期間延長を申請したため、次年度使用額を生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
セルロースナノシートの酵素合成とキャラクタリゼーション、セルロースナノシートが示す加水分解触媒活性の評価に使用する試薬、器具類などの消耗品、学会参加に要する旅費や参加登録費、英文校正費、学内機器の使用費として使用する。
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