研究課題/領域番号 |
26288059
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
増渕 雄一 京都大学, 化学研究所, 准教授 (40291281)
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研究分担者 |
松宮 由実 京都大学, 化学研究所, 助教 (00378853)
渡辺 宏 京都大学, 化学研究所, 教授 (90167164)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レオロジー / 伸長流動 / シミュレーション / 粘弾性 / 分岐高分子 / ポリノルマルブチルアクリレート / ポリスチレン / ポリイソプレン |
研究実績の概要 |
本研究は配向/伸長状態における高分子の分子摩擦を調べることを目的とする.我々は本研究に先立って高速流動下での配向/伸長状態で分子摩擦が大きく減少する場合があることを発見した.これは未知の非線形現象で,高分子ダイナミクスの記述の根幹に関わる.本研究では1)ポリスチレン(PS),ポリイソプレン(PI)に対する流動実験,2)分子動力学計算,によって高分子の摩擦の性質を調べ,現象を分子論的に理解すること,また3)汎用の粗視化モデルを構築すること,を計画している.
本年度は流動実験について新たにオーストラリアのモナシュ大学のSridhar教授との協力関係を構築し,新規の実験データを入手できた.特に予定していたPS,PIに加えて,ポリノルマルブチルアクリレート(PnBA)のデータを得た.この結果を解析したところ,まずPSとPIにおいては濃厚溶液やメルトにおける分子摩擦の低下がほとんど同じように起きていると示唆された.一方,PnBAは他の2つの高分子に対して全く異なる挙動を示すことがわかった.具体的には,PS,PIではメルトや濃厚溶液において分子摩擦の低下が示唆されるのに対し,PnBAではメルトであっても分子摩擦の低下がないと推測される結果が得られた.これらの結果から,高分子の一次構造が流動変形下での摩擦係数の変化にどのように影響するかは全く簡単な問題ではなく,様々な方向からの調査が必要であることを示している.
上記の結果に加えて,本年度は分岐高分子における摩擦低下の影響も調べた.粗視化モデルを分岐高分子に拡張して既存の実験結果を解析したところ,分岐高分子においても摩擦の低下は起きるものの,その影響はあまり大きくないことがわかった.この理由は短い分岐鎖が系全体の配向を抑制することと,主鎖の主要な緩和機構である分岐点の引き込みが摩擦低下と競合するためである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験データの取得において,オーストラリアのモナシュ大学との協力関係が築けたことにより,当初予定の無かった試料の結果が入手できた.このデータはしかし,新たな課題を多数提示するものであり,当初の計画よりも実施すべき実験や計算は増加した.これらを勘案すると,上記の評価となる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も従来の方針を継続して進める.ただし.モナシュ大学から入手したポリノルマルブチルアクリレートの結果から,できるだけ多様な構造をもつ高分子を調査することが重要であると示唆されるため,可能な範囲で実験と計算において検討する物質を増やす.このため海外の協力先(ナポリ大学,デンマーク工科大学,モナシュ大学)との連携をさらに強化し,相互に効率的な探索をおこなう.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度への繰越が発生した理由は,研究代表者の移籍が昨年度途中に内定したためである.研究の継続性等を勘案して設備の購入を27年度に後ろ倒しした.
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次年度使用額の使用計画 |
当初26年度に計画していた伸長粘度測定冶具の購入を27年度に行う.
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