研究課題/領域番号 |
26288060
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 紳三郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50127049)
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研究分担者 |
大北 英生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50301239)
辨天 宏明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60422995)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エネルギー変換 / 有機薄膜太陽電池 / 機能性高分子 / 共役高分子 / 高分子相分離 / 電荷分離 / 電荷再結合 |
研究実績の概要 |
電子機能性共役高分子は、有機薄太陽電池のp型半導体、n型半導体として優れた潜在能力を有するにもかかわらず、学術的な基礎研究の遅れにより期待される成果を上げられずにいる。本研究では、共役高分子という新しい電子機能材料に対して、“ナノ構造からマクロな機能”に至る道筋を明確に実証し、得られる知見に基づき高効率な高分子薄膜太陽電池の実現を目指している。
本年度は、①過渡吸収分光測定により、共役高分子の相分離薄膜に対して電荷分離・再結合過程を評価し、光電流生成の起源である自由電荷生成過程の詳細を明らかに。また、②光・電子機能を分担した共役高分子の三元相分離膜を用いる高効率薄膜太陽電池の設計指針を確立し、その効果を実証することに成功した。具体的成果は次に述べるとおりである。 ・熱アニールによる相分離の進行に伴い、光電変換特性が向上する薄膜試料に対して過渡吸収分光測定を行ない、高効率化の起源を素過程の段階から評価した。熱アニール後の膜では、生成電荷の対再結合が抑制され、電極に回収可能な長寿命電荷(自由電荷)の生成効率が増加することを明らかにした。また、共役高分子鎖の結晶化など、自由電荷生成効率の向上につながる相分離の構造的要因を特定することができた。 ・光吸収波長が相補的な関係を示す共役高分子の三元相分離膜を用いることで、広帯域かつ高効率光捕集を実現し、従来の二元相分離系を超えるエネルギー変換効率を達成した。また、三元相分離系の動作機構を明らかにし、本設計指針の有用性を学術論文や学会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共役高分子薄膜系の過渡吸収測定では、光励起により生成する一重項励起子、三重項励起子、正孔、電子など、過渡種のスペクトル帰属が困難を極めると予想されていた。本研究では、これら帰属の問題を克服し電荷種の生成ダイナミクスの評価と解析に十分な実験期間をあてることができた。超高速過渡吸収分光法により、自由電荷生成効率の違いを明らかにできたことで、高効率光電変換に支配的な素過程を明確に特定し議論できるようになった。一方で、高効率自由電荷生成に特徴的な相分離界面の電子的、構造的要件の特定については次年度も引き続き検討を続ける必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
大幅な研究計画の変更なく、おおむね当初の予定通りに進める。
最終年度の到達目標は、「共役高分子の三元相分離膜を用いた高効率薄膜太陽電池の開発」である。本年度は、光電流の向上を実現する三元相分離系の設計指針を得ることができた。今後はこの成果をベースに、光電流や光起電力、電荷輸送能の全てを同時に向上できる三元相分離膜の構造を明確にし、適切な共役高分子材料の選択と、高次相分離構造の制御により、高効率高分子薄膜太陽電池の創出をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、分子量などの分子特性が均一な共役高分子試料の作製を目的に、分取GPCシステムの導入を予定していた。しかしながら、分子量制御された試料を別途購入することが可能になったため、本年度の購入計画を変更した。市販試料を購入することで、分取GPCシステムの導入と立ち上げに要する時間を三元相分離系の実験にあてることができ、研究計画の加速につながった。また、相分離構造解析の実験を加速させるために、現有の走査型プローブ顕微鏡(SPM-9600)の測定精度を向上させる必要が生じた。そこで、当初の使用予定を変更し、SPM装置の改良費用に一部を使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
高効率三元相分離膜の構造と電子物性評価を実現するために、電流計測原子間力顕微鏡に関連する計測システムを追加、改良する必要があり、そのための費用に使用する。また、三元相分離系の目的に則した、分子量、結晶化度を有する共役高分子試料の購入に使用する。
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