研究実績の概要 |
電子機能性共役高分子は、有機薄膜太陽電池のp型半導体、n型半導体として優れた潜在能力を有するにもかかわらず、学術的な基礎研究の遅れにより期待される成果を上げられずにいる。本研究では、共役高分子という新しい電子機能材料に対して、“ナノ構造からマクロな機能”に至る道筋を明確にし、得られる知見に基づき高効率な高分子薄膜太陽電池の実現を目指している。
本年度の前半は、昨年度から引き続いて、光・電子機能を分担した共役高分子の三元相分離膜を用いる高効率太陽電池の設計指針確立と、その効果の実証に努めた。近赤外波長域の光を捕集可能な電子Donor性、Acceptor性共役高分子のブレンドをベースに、可視波長域の共役高分子を添加した三元系が、従来の二元系を超えるエネルギー変換効率を達成できることを実証した。太陽電池特性の三成分ブレンド比依存性と分光測定の結果から、高効率化に成功した要因として、可視共役高分子から近赤外Donor, Acceptor共役高分子への長距離エネルギー移動と、それに続く高効率なDonor/Acceptor界面電荷分離が考えられる。また、可視共役高分子がDonor, Acceptor共役高分子の正孔、電子トラップとして働かないよう、三成分のHOMO, LUMOエネルギー準位を制御することが高効率電荷輸送を維持するうえで重要になることを示した。
本年度の後半は、高効率化に成功した二元、三元相分離薄膜の構造的特徴を明らかにするため、局所電子物性計測が可能な走査型原子間力顕微鏡(SPM)を新たに購入した。新規導入したSPMを用いる詳細な薄膜構造解析により、Donor/Acceptor相分離の界面混合領域を十数ナノメートルの分解能で可視化することに成功した。また、界面混合領域の電荷輸送特性がマクロな太陽電池性能を支配することを示し、これらの成果を基に、高分子薄膜太陽電池の高性能化・高機能化の鍵となる相分離の構造的特徴を明らかにした。
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