研究課題/領域番号 |
26288063
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青島 貞人 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50183728)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 高分子設計 / 高分子分解 / リビング重合 / カチオン重合 |
研究実績の概要 |
これまでリビングカチオン重合により、刺激応答性などの特異的な性質を有する機能性ポリマーの合成を検討してきた。今年度は、当研究室で見いだしたビニルエーテルとアルデヒドの交互型重合などを用い、(1) 刺激応答性と選択的分解性を併せ持つポリマーの精密合成、(2) ポリマー鎖の選択的な切断法の検討及びブロックやスターポリマーへの導入、(3) ビニル付加・開環同時カチオン共重合を検討した。 (1) イオン性基、撥水・撥油性基、温度・pH応答性基を有するビニルエーテルとアルデヒドとの交互共重合を検討した。重合は制御型で進行し、得られたポリマーは比較的狭い分子量分布を持ち、ビニルエーテルの特性に対応した様々な性質・刺激応答性を有することがわかった。さらに、比較的穏和な酸性条件下で減圧除去可能な低分子にまで分解できた。 (2) 上記系が副反応無くリビング的に進行し、正確にユニット毎にアセタール構造を形成することを利用して、ポリマーの特定位置に分解性ユニットを導入する方法を検討した。その結果、設計通りにポリマーを切断することができ、たとえば、ポリマーの中心部に交互ユニットを導入すると加水分解後に正確に半分に切断された。一方、ブロックコポリマーや星型ポリマーに導入すると、酸加水分解によりポリマーの一部が選択的に分解されホモポリマーに変換された。また、ゲルーゾル変化、内包物放出が可能になった。 (3) ビニルエーテルとオキシラン化合物を適切なルイス酸触媒を用いた開始剤系により重合すると、オキシラン化合物の構造が最適な場合は、交差生長反応を伴ってビニル付加・開環同時カチオン共重合が進行することがわかった。さらに種々の置換基のオキシランを用い、生成し得る生長炭素カチオン種と交差生長の関係についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時に記載した「研究の目的」は、ほぼ全て予定どおり達成できた。さらに予定になかった下記のようないくつかの新しい研究の萌芽を見つけることができたため、当初の計画以上に進展していると評価できると考えている。 ・対イオン設計に基づく新規重合開始剤系の開拓のなかで、Ru触媒系の配位子の影響などの検討を行っているが、その中でビニルエーテルのカチオン重合とアクリレートモノマーのラジカル重合の同時重合が進行することがわかった。今後、ブロックコポリマー合成などの可能性がある。 ・ブロックや星型ポリマーの新規合成法として、含フッ素溶媒を用いた二層系による重合の可能性が明らかになった。具体的には、まず、有機層及び含フッ素溶媒層の各層にモノマーを添加し、上層の有機層で重合を開始する。第一段の反応が終了した時点で、撹拌により系を均一にして、二段目の重合を開始した。その結果、ブロックコポリマーが高収率で得られることがわかった。 ・フィルム形成可能なポリスチレン類及び温度応答性セグメントを組み込んだブロックコポリマーを新たに精密合成し、わずか3℃の温度上昇で親水性表面が疎水性になり、高感度で可逆的な応答パターンを示すことがわかった。温度応答性フィルムとして新しい分野を開拓できる可能性が示された。 ・界面機能設計において重要と考えられるポリマー表面構造の検討を、共同での研究により、ビニルエーテルの表面を用いて初めて行った。その結果、メタクリレート型のポリマーとの違いが明確になってきた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 対イオン設計に基づく新規重合開始剤系の開拓:26年度の計画を引き続き系統的に検討していくが、さらに、ポリマー末端のアセタールやエーテルから重合の再開始の検討を行う。この手法は、重合条件が異なりすぎてブロック・グラフトや星型ポリマーが合成できない系、精密シークエンス制御、ポリマーのストック利用による自動合成が期待できる。まず開始用に酸素親和性が高い金属ルイス酸の使用、重合進行にはドーマント種からハロゲンを引き抜きやすいルイス酸を組み合わせる手法を検討する。 (2) 高度に構造制御された刺激応答性高分子材料の創製:26年度にビニルエーテルとアルデヒドとの交互共重合を利用して、リビングポリマーの特定位置に分解性ユニットを導入する方法を見出したが、その際導入される切断ユニットは5ユニット程度のセグメントであった。そこでアルデヒドの付加反応自体を見直し、切断ユニットを1ユニットにすることを試みる。もしこれが可能になると、ポリマー切断箇所がさらに明確になるとともに、分解生成物も激減する。 これまで水層/有機層間で可逆的に移動するブロックコポリマーを検討してきたが、今年度は高感度に刺激に応答する系、特定のイオンや低分子化合物の輸送、触媒含有ミセルの移動による触媒の除去・リサイクルなどを検討する予定である。一方、形態の異なる星型ポリマーの創製も行い、それらの移動の可能性も明らかにする。 ポリ乳酸は、生分解性・疎水性等の特性、らせんポリマーの生成が知られているだけでなく、様々なゲル化やステレオコンプレックスの形成も見いだされている。本研究では、上記(1)で検討する方法を用いて、このポリ乳酸セグメントとビニルエーテルのブロックコポリマーを合成する。特にポリ乳酸の生分解性とビニルエーテル特有の刺激応答性を組み合わせ、自然調和型で機能性を有する高分子材料群を創製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はほぼ計画通り(またはそれ以上に)進行することができた。基金分として16万円あまり(全体の約5%)が未使用額として残ったが、年度末にあえて0円にするより、次年度に研究遂行のために必要な物品費として使用した方が有効と考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度において、研究遂行のために必要な物品費として使用する予定である。
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