これまでにガラス基板上への脂質支持膜の作製、小胞化した細胞のガラス基板上への固定には成功している。しかしながら、現在の脂質支持膜作製法では、再現性良く表面を観察することが困難であり、脂質支持膜への細胞融合を確認するには至っていなかった。そこで、新たに溶液の入れ替えが容易なフロー系のウエルを作製した。ポリジメチルシロキサン(PDMS)のブロックにテフロンチューブを挿入したウエルを作製し、上下をカバーガラスで覆い、カバーガラス表面の蛍光を全反射条件で観察した。このウエル内で脂質支持膜を作製し、水、緩衝溶液、エタノールで洗浄したところ、エタノール洗浄で脂質支持膜が除去されることを確認した。この結果から、新たに作製したウエルでは、溶液入れ換え後でも再現性のよい蛍光信号が得られることがわかった。 一方、新たな手法として、ガラス基板上に付着した細胞に高濃度の電解質溶液を加え、浸透圧により細胞内部の水を排除し、平面化する方法について検討した。明視野観察下で、ガラス基板に付着させた細胞に5 M NaCl水溶液を添加したところ、細胞内の水が細胞外に放出され、平面化する様子が確認できた。そこで、長鎖アルキル基をもつ蛍光性分子(C18-Rhodamine)で細胞膜を染色し、暗視野で観察したところ、細胞表面からの均一な蛍光信号を得ることができなかった。これに対して、C18-Rhodamineで染色した細胞を純水で処理して細胞内に水を吸収させ、細胞を球状にしたところ、予想に反して細胞表面全体から強い蛍光信号が確認された。この現象はおそらく、球状化した細胞内に光が封じ込められ、細胞表面を伝搬した結果によるものと予想されるが、現段階ではその機構は明らかではない。今後、この偶然に発見した興味深い現象について、調査を進めていく予定である。
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