研究課題/領域番号 |
26288070
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西野 智昭 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (80372415)
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研究分担者 |
椎木 弘 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70335769)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分析化学 / 生体機能利用 / 表面・界面物性 / 1分子計測(SMD) / 原子・分子物理 / 分子探針 |
研究実績の概要 |
光誘起電子移動を単分子レベルにて計測できる手法の開発を行った.単分子レベルにおける電子輸送について最近多数の研究報告がなされているものの,光誘起電子移動の単分子検出は報告がなく,本研究が初めてのものである.計測には,モデル系として,フラーレン(C60)とポルフィリン(Por)を用いた.即ち,STMの金属製探針にフラーレン分子を固定化し(C60分子探針),これをPorのごく近傍まで接近させた後,両者の距離を徐々に引き離しながら光照射下にてC60-Por間の電流を計測した.このような測定により,光励起されたPorからC60探針への光誘起電子移動の単分子検出できることを明らかにした.本計測手法は,測定対象の分子ペアが非常に弱い相互作用を形成する場合においても,その最安定構造状態の電子移動を計測することができる.また,検出信号であるトンネル電流の著しい距離依存性によって,測定される電流は,下地金属探針の最も先端に存在する探針分子と,これに最近接した試料分子との,単分子-単分子間の電子移動に起因する. さらに,新規に開発した測定手法に立脚し,多様な分子の組み合わせにおける光誘起電子移動の単分子計測へと展開した.これにより,生体内光合成の高効率な光エネルギー変換に関する分子レベルにおける系統的理解につなげると共に,高効率での光エネルギー変換を達成するために不可欠な分子設計を明らかにする.具体的には,光合成における一連の光誘起電子移動の各素過程(スペシャルペアにおける光電荷分離,および電子伝達鎖における各電子移動)を分子レベルで追跡し解明する.また,人工光合成や有機薄膜太陽電池において広く用いられているポリ(3-ヘキシルチオフェン):フラーレン誘導体(P3HT : PCBM)などのヘテロダイマーにおいても同様に検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年,光合成における電荷分離過程をモデルとして,様々な光エネルギー変換デバイスの研究開発が盛んに行われているが,さらなる効率の向上を図ることが喫緊の課題となっている.そのためには天然光合成における効率の極めて高い光電変換過程の分子レベルにおける理解を得て,これをもとにデバイス設計を行う必要がある.そこで,本研究では,光合成における電荷分離過程を単分子レベルにて計測し,その詳細な理解へとつなげることを目的とする.これを達成するためには,光誘起電子移動を単分子レベルで計測できる手法が極めて重要である.昨年度は,モデル系における基礎検討を実施し,ポルフィリンからフラーレンへの光誘起電子移動の単分子計測が可能であることが実証できた.さらに,今年度は測定系の更なる改善,および研究展開として,光合成における一連の光誘起電子移動の各素過程(スペシャルペアにおける光電荷分離,および電子伝達鎖における各電子移動)の検出への検討に着手することができた.以上により,現在までの達成度として,「(2)おおむね順調に進展している.」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
新規に開発した測定手法に立脚し,多様な分子の組み合わせにおける光誘起電子移動の単分子計測へと展開する.これにより,生体内光合成の高効率な光エネルギー変換に関する分子レベルにおける系統的理解につなげると共に,高効率での光エネルギー変換を達成するために不可欠な分子設計を明らかにする. さらに,光誘起電子移動が生じる周辺環境の界面構造が電子移動効率に与える影響を明らかにする.生体内における光合成膜は,単に光合成に関わるタンパク質・分子を固定するだけでなく,電場を形成する等によって,光電荷分離の高効率化に寄与していると考えられている.そこで,測定を行う基板上に,脂質二分子膜等を形成し,さらに膜タンパク質を包埋させた条件にて,天然光合成における一連の光誘起電子移動の各素過程を測定する.精密に評価,規定された,生体を模した界面における光誘起電子移動を明らかにする.界面構造が光誘起電子移動に与える影響を明らかにすることによって光エネルギー変換デバイスの分子レベルでの設計指針を得ることによって,エネルギー変換効率の効率化に大きく貢献する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験補助等に対する謝金の支払いを想定していたが,実験手順の効率化,簡素化によって補助を省くことができ,謝金の支出が不要だった.
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次年度使用額の使用計画 |
謝金が不要だった一方,H27年度は物品費のうち,試薬・材料費が当初想定よりも多く必要であった.次年度も同様の状況が予想されるため,物品費に充てる.
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