研究課題/領域番号 |
26288071
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
水谷 文雄 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (80118603)
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研究分担者 |
安川 智之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (40361167)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゲル粒子 / 高感度免疫アッセイ / 酵素 / 電解酸化 / 誘電泳動 |
研究実績の概要 |
本年度は,初年度に行った電気化学制御型の酵素内包アルギン酸ゲル粒子作製の最適化を行った.定電流電解法を用いて均一に銅イオンを生成させることにより,均一サイズのゲル粒子を大量一括で得ることができた.アルギン酸ナトリウム溶液に酵素を混合しておくことにより,酵素内包型ゲル粒子を作製することができた.酵素としてグルコース酸化酵素(GOx)を用いた場合,内包させることのできる最大濃度は2 mg/mLであることがわかった.また,電気化学顕微鏡を用いて1個のゲル粒子に内包された酵素の活性を評価した.酵素基質であるグルコース存在下で酵素を包括させていないゲル粒子および濃度の異なるGOxを内包させたゲル粒子から生成する過酸化水素を計測した.粒子表面に固定化した場合と比較して数十倍の酵素活性を示すことがわかった. また,マイクロ電極先端に酵素を内包したアルギン酸ゲルを形成させることが可能であり,マイクロ酵素電極として利用できる可能性を示した.この酵素修飾法は,電解溶出による銅イオンのせいせいにより進行するため,マイクロアレイ電極の中の目的とする電極表面にだけ選択的に酵素を修飾できる.これは,簡便なマイクロマルチ酵素センサの作製法として有用であることがわかった. ゲル粒子の誘電泳動特性を評価した.電圧,周波数,溶液の導電率に対する粒子の動く方向と速度を調べた.誘電泳動を用いて抗体固定化粒子を抗原固定化領域に集積化し,免疫反応により捕捉することができた.捕捉される粒子の数が,抗原濃度に依存する結果が得られており,免疫測定法として利用できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
この2年間に予定していた研究実施項目をほとんどすべて遂行することができた.本研究の3つの主開発項目である,「電気化学制御型の酵素内包アルギン酸ゲル粒子の開発」,「レドックスサイクリングおよび変換蓄積法による酵素反応生成物の高感度計測」および「誘電泳動による微粒子の免疫捕捉を応用した免疫測定法」について研究を行い,それぞれ,酵素内包量の増加(抗原-抗体の認識反応あたりの免疫ラベル量の増加),検出下限の低減,免疫反応によるターゲット計測の高速化が可能であることを示すことができた.酵素内包ゲル粒子の誘電泳動特性の評価など,すでに,これらの3つの技術の融合に取り組んでいる. ゲル粒子からの酵素の脱離を十分に評価できていないので,本年度の初期段階で検討を行う.また,予定していた研究以外に,本手法が異なる種類の酵素をマイクロアレイ電極上に就職する方法として有効であることを示すことができた.この方法により,ニードル型デュアルマイクロディスク電極にGOxと乳酸酸化酵素(LOx)を,それぞれに就職することができ,局所領域におけるグルコースおよび乳酸センサとして利用できる可能性を示せた.この2種類の重要な生体関連物質を計測可能なマイクロセンサを利用することにより,単一細胞のグルコース取り込みおよび乳酸放出の評価へと新たな展開ができる状況となった. 以上のことから,本研究は,「当初の計画以上に進展している」と判断することができる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,個々に開発してきた3つの技術を組み込んだ,迅速,簡便および検出感度の向上をキーワードとした免疫測定デバイスの開発を行う. まずは,酵素内包アルギン酸ゲル粒子のサイズをさらに微小化する.誘電泳動による操作法と組み合わせた免疫反応のラベルとして用いるためには,1ミクロン以下の粒子が望ましい.そこで,1ミクロンの酵素内包アルギン酸ゲル粒子を作製し表面に抗体を修飾する.電極サイズと形成される粒子のサイズの関連,および,その際に印加する電流,時間との関連を詳細に調べる.ここで作製した微粒子を用いて,「レドックスサイクリングおよび変換蓄積法による酵素反応生成物の高感度計測」および「誘電泳動による微粒子の免疫捕捉を応用した免疫測定法」を組み込む.酵素修飾電極を作製し,さらにその表面を抗体修飾する.誘電泳動を用いて,ターゲット分子の存在下で酵素内包ゲル粒子を酵素修飾電極表面に捕捉する.ここでは,酵素修飾電極表面上の抗体とゲル粒子表面上の抗体の間にターゲット分子を捕捉するサンドイッチ法を用いる.ここで,誘電泳動による微粒子操作により簡便で迅速にゲルを捕捉する.ゲル内の酵素(ベータガラクトシダーゼ)反応生成物(4-アミノフェノール)電極で酸化し,酸化されて生成するキノンイミンを電極表面上の酵素(GOx)で再還元するレドックスサイクリングによりシグナルを増幅する.また,4-アミノフェノールの酸化と銀イオンの還元を組み合わせた電池を構築し,ターゲットの捕捉を表すシグナルを変換濃縮することにより感度の向上を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
酵素内包アルギン酸ゲル粒子を電気化学的に作製する際には,マイクロアレイ電極上に酵素を含むアルギン酸ナトリウム溶液を滴下する必要があった.よって、1回の粒子作製工程において数ミリリットルの溶液を必要としていた.しかし、チャンバーを改良することにより,100マイクロリットル程度でゲル粒子に作製が可能となった。また,使い捨てていたマイクロアレイ電極の繰り返し使用が可能であることが判明し,作製コストが低下した.これらのことから,酵素,電極材料等に必要な費用が低下したため次年度に使用できるようになった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の繰越金は,数種類の抗体の購入に使用する.複数種類の抗体を用いて,異なる種類のターゲット分子を計測できることを示し,本計測手法の適用範囲の広さを示したい.早期に複数種類の抗体を購入し研究を遂行する.
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