19F NMRのケミカルシフトの変化による核酸検出法は既存の蛍光法と比較して、シグナルが尖鋭であり、生体バックグラウンドも皆無であり、in vivoなどの夾雑資料中での核酸検出法として注目されている。しかし、既存の19F NMRプローブではケミカルシフトの変化幅が0.5 ppm程度と小さく、B/F分離が困難であった。我々は既に平成26年度には光架橋素子である3-シアノビニルカルバゾールとトリフルオロメチルチミジンとの光架橋反応により8 ppmという大きなケミカルシフトの変化を実現し、平成27年度にはハイブリダイゼーションチェインリアクション(HCR)を組み込むことによりnMオーダの微量の核酸類を検出することに成功していた。平成28年度には、多数の核酸類を夾雑物の中から同時に検出できるか検証を行った。置換基の異なる複数の新規光架橋素子を設計・合成し、光架橋反応を行うことにより光架橋前後で8 ppm近い大きなケミカルシフトの変化が確認された。また、光架橋後はそれぞれのケミカルシフトに違いが生じるため、各ピークを分離、定量することにより現在、3種類の標的核酸を同時検出可能である。また、小分子型の核酸検出プローブとしてビスベンジイミド誘導体を報告しており、バルジアウトした塩基を識別することに成功した。その他、化学反応を組み込んだケミカルシフトの変化を用いた検出法という概念は核酸類の検出だけでなく、様々な分子の検出にも利用可能であり、OPA反応を改良することにより遊離アミノ酸を19F NMRにより同時一斉検出可能であることを実証した。
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