研究課題/領域番号 |
26288078
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
田邉 一仁 青山学院大学, 理工学部, 教授 (40346086)
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研究分担者 |
孫 安生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (30447924)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞核 / ルテニウム錯体 / 酸素濃度 |
研究実績の概要 |
細胞核は、がん放射線治療の標的となるDNAを安定に保持する細胞内器官である。放射線によるDNAへのダメージと殺細胞効果は、酸素濃度に大きく影響されることから、核内の酸素濃度を計測することは非常に重要である。しかし、核へのプローブ分子の送達は核膜の透過が必要となるため難しく、これまでに細胞核を標的としての酸素濃度を計測する手法は確立されてこなかった。本年度は、腫瘍細胞内の酸素濃度計測法開発の一環として、腫瘍細胞内の核内酸素濃度を測定可能な分子プローブの開発に取り組んだ。酸素応答性のりん光を発するルテニウム錯体に核集積性を付与し、核内酸素濃度の変動を可視化することを試みた。 Hoechst 33258分子は速やかに核膜を透過し、核内のDNAと結合する性質を持つことから細胞核染色試薬として汎用されている。この特性をルテニウム錯体に付与することができれば、錯体は核内に送達され、核内の酸素濃度に応答したりん光を発するものと考えた。そこで、Hoechst33258を導入したルテニウム錯体(Ru-Hoechst)を核内酸素濃度検出プローブとして設計した。次に、Ru-Hoechstの機能をヒト肺がん細胞A549を用いて調べた。Ru-Hoechstを細胞に投与した後、蛍光顕微鏡で観察したところ、一部の細胞ではあるものの、細胞核に取り込まれ、ルテニウム錯体の発光が確認できた。培地中の酸素濃度を20%から0%へと変化させ、続いて酸素濃度を20%に戻したところ、酸素濃度の変化に応じてルテニウム錯体の発光が増減した。以上のように、Ru-Hoechstを用いて細胞核内の酸素濃度変動を可視化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、放射線治療の標的となるゲノムが格納されている細胞核内の酸素濃度計測に成功した。また、開発した核内酸素検出プローブを用いることによって、細胞外部の酸素濃度変化によって核内の酸素濃度が変化することを明らかにした。これまでに、りん光プローブを化学修飾を用いて閣内に送達した例はなく、本研究によって細胞器官の新たな酸素濃度検出手法を提案できた。 他方、細胞核は巨大なゲノムを安定に保持すると共に、ゲノム情報から機能の異なる分化細胞を作り出す仕組みを備えた動的な細胞内器官であり、細胞機能の重要な担い手である。核内酸素濃度の把握は、分化・発生のような高次レベルの生命現象への理解に結び付くことから、放射線治療だけでなく、生命科学の基礎研究にも本プローブは貢献できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Ru-Hoechstを用いて細胞分裂時の細胞核における酸素濃度変化などを可視化し、放射線治療における酸素の役割を明らかにすることを目指す。また、他の細胞内器官内における酸素の変動と比較することにより、包括的に細胞機能と酸素の関係を明らかにしたいと考えている。さらに、実験動物の腫瘍組織における酸素濃度計測を試み、放射線治療における照射の最適環境を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は合成した分子プローブの細胞実験による機能評価を2015年秋ごろから行う予定であったが、細胞実験の実施許可がおりたのが12月頃にずれ込んだため、細胞実験用の経費が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度から本格化する細胞実験および動物実験などの生化学実験の諸費用として使用する予定である。
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