平成28年度は、これまでに開発を進めてきた酸素プローブであるりん光発光性ルテニウム錯体の高感度化を目的として、同錯体にさらなる修飾を加えた。具体的には、ルテニウム錯体と同程度のエネルギーレベルの三重項励起状態を示すピレン基にハロゲン基を導入するとりん光の酸素応答特性が向上することを明らかにした りん光の酸素感受性は、ルテニウム錯体の三重項励起状態の寿命に大きく依存する。すなわち、長寿命化すれば酸素感受性は向上する一方、短寿命化すれば感受性は下がる。ピレン基の導入による酸素感受性の向上は、ルテニウム錯体-ピレン間のエネルギー移動とピレン基の長寿命励起状態に起因して生じると考えられている。そこで今回は、ピレン基にブロモ基を導入した誘導体を合成し、ルテニウム錯体のりん光の酸素感受性が変化するか調べた。 ブロモ基を備えたRu錯体(Ru-PyBr)と参照化合物である無置換ピレン基をもつRu錯体(Ru-Py)の発光スペクトルを水溶液中の酸素濃度を変えて測定したところ、いずれの場合も、酸素濃度の増加に伴うりん光強度の減少が確認できた。また、Stern-Volmer plotを行い、Ksv値を算出したところ、Ru-PyBrが9045 M-1、Ru-Pyが6701 M-1となり、酸素感受性はRu-PyBrが高いことがわかった。これらの結果は、ブロモ基の導入により、エネルギーレベルの低いブロモピレン基へのルテニウム錯体からの三重項エネルギー移動が促され、りん光寿命が長寿命化したことを示唆している。 また、腫瘍の放射線感受性を調査するために、担癌マウスを作成した。各種ルテニウム錯体を投与したところ、特にDNA鎖を基本骨格として持ち、かつ低酸素蓄積性のニトロイミダゾール基をもつDNA-Ruが腫瘍に集積し、酸素応答性のりん光を発することを確認した。現在、放射線感受性の検討を行う準備を進めている。
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