研究課題
本研究では、水中で簡便に酵素を封入できる高分子中空カプセルPICsomeを利用することで、生体適合性に優れ、生体内で安定に活性を維持し、長期間にわたって酵素を利用するための技術基盤を築くことを目指しており、 本課題では、(1)Bio-detoxification、(2)酵素補充、(3)ナノ光源デリバリー、を実行するための酵素封入PICsomeを作製し、疾患治療などに応用できる酵素型ナノリアクターの開発を進めている。平成27年度は、(1)に関して、即時型アレルギーのトリガになるヒスタミンを分解する酵素(ジアミンオキシダーゼ; DAO)を封入したPICsomeを用いてマスト細胞モデル培養細胞RBL-2H3を用いての評価を進め、培養条件下で脱顆粒後に有意にヒスタミンが除去可能であることを示すと同時に、DAOのみに比べてDAO@PICsomeが優れた処理能を示すことを明らかとした。これらの成果は、高く評価され、Pacifichem2015において優秀ポスター賞を受賞した。 (1)に関連して、酵素封入PICsomeの粘膜部位での活用、及び、(2)に関連して、細胞内での活用のための実践的手法開発に向けて、PICsomeのPIC膜の化学修飾法の確立を行った。特に、PICsomeの粘膜付着能と細胞取り込み能と膜修飾の相関を明らかにした。(3)では、発光酵素であるNanoLucを封入したPICsomeを作製し、ナノ光源として利用できることを明らかにした。また、光応答性PICsomeとして、クマリン誘導体で修飾したPICsomeを作製し、その光応答性について基礎的評価を開始した。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書記載事項と照らし合わせ、上述の3つの研究項目について点検する。項目(1)について、DAO封入PICsomeを用いてヒスタミン除去能の評価を進め、マスト細胞モデルRBL-2H3を用いての試験を行い、定量的評価を進めた。また、細胞に取り込まれにくいPICsomeを用いてヒスタミン除去ができることを示した。さらに、投与場所として想定される粘膜組織への吸着能についての評価を開始し、その機能強化のための材料開発を、計画を前倒しして開始した。加えて、動物を用いた脱顆粒実験の準備も進めた。項目(2)について、β-gal@PICsomeに関して酵素をより高活性な状態を維持したまま長期間活用する手法の検討を引き続き行い、酵素活用範囲の拡大に成功した。また細胞内のリソソームに適切に酵素を送り込む手法の確立に向けて、PICsomeの一般の培養細胞への取り込み能を向上させるための新しいPIC膜修飾法の確立に取り組んだ。項目(3)について、ナノ光源としてNanoLuc@PICsomeの作製法の確立を行った。特に、分子量のあまり大きくないNanoLucをPICsome内に保持するための工夫を行い、封入効率の向上に成功するとともに、活性の維持を確認した。また、光応答性PICsomeの開発を前年度に続いて進め、クマリン誘導体をPICsomeのPIC膜に修飾する手法を確立した。次に試験管レベル、及び、培養細胞を用いた機能評価も進め、定量的な機能評価法の基礎を固めた。以上まとめると、項目(1)についてはスムーズな展開が行われた結果、一部計画を前倒しすることもできており、十分な進捗が認められる。項目(2)については、材料開発の観点では大幅な進捗が見られたものの、生物評価が十分でない点があるため、引き続き28年度にフォローアップをはかる。項目(3)については計画通り十分な進捗が認められた。全体の評価としては、当初の計画に修正を要するほどの遅れはなく、十分に進展したものと判断される。
平成28年度も、大きな計画変更をすることなく、研究を推進する。DAO@PICsomeについて、生体内でヒスタミン濃度を下げることに用いることで、炎症やアレルギー反応などのカスケードを断ち切り、病態の連鎖・継続を遮断することを狙う。マウス耳介をマスト細胞の脱顆粒誘導試薬で処理した後、DAO@PICsome の有無で局所の血管透過性の亢進に差が生じるか評価する。また、マウス耳介にIgEを投与し、その後に抗原を与えてアナフィラキシー反応を引き起こす実験系(passive cutaneous anaphylaxis; PCA)を用い、抗原投与後に起こるマスト細胞からのヒスタミン分泌に基づく血管透過性亢進を誘起した後に、DAO@PICsomeを耳介内に直接投与するなどして、その後の漏出性の変化を詳細に評価する。同時に、花粉症などで症状の緩和が望まれる目や鼻などの粘膜組織に注目し、粘膜に滞留して持続的に効果を示すためのPICsomeの機能化を進め、さらなる応用を目指す。特に、PICsomeの表面物性を制御することで、その粘膜付着性を向上させる。β-gal@PICsomeを用いた酵素補充については、エンドソーム、リソソームでの機能評価が首尾よく進んだ場合、将来的な細胞質への酵素補充へと発展させるためにPICsomeの機能改良についても検討を進める。具体的には、エンドソームからの脱出、あるいは、リガンドの装着による取り込み経路の変更などを視野に入れる。ナノ光源としての酵素@PICsomeの評価については、ナノ光源を培養細胞に与えるなどの評価系を用い、発光のための基質添加後の細胞取り込み能変化、徐放能変化などを通じて、自発光型デバイスとしての機能評価を進める。
所属大学のキャンパス移転作業にともない、利用を予定していた細胞実験室及び動物実験室も移転を余儀なくされたため、年度後半に生物評価実験ができない時期が存在した。その結果、それらの実験にかかる経費、及び、必要とされる試薬や材料合成のための消耗品等の使用額が当初よりも減少することとなり、次年度使用額が発生した。
本研究課題について研究計画に遅れを出さずに完了するよう、次年度使用額を用いて平成27年度に実施ができなかった一連の実験を28年度に行う。
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