研究課題/領域番号 |
26288087
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
岩佐 精二 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30303712)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イムノアッセイ / 残留農薬検査 / 免疫化学反応 / パラジウム / リンカー / ハプテン / ルテニウム |
研究実績の概要 |
本研究は、イムノアッセイを利用した低分子残留農薬分析法を確立し、実質的に現在用いられているすべての農薬の簡便、廉価、迅速、高精度、自在な測定環境などの特徴を有する分子センサーを提供することを目的とする。
具体的には、下記(1)および(2)の成果を得た。 (1)触媒合成:ビス(オキサゾリニル)フェニルパラジウム(Phebox-Pd)およびオキサゾリニルフェニルルテニウム(Pheox-Ru)を合成し、触媒活性を同時に検討するためカウンタ-アニオンを変化させた系(BF4-, PF6-, OAc等)や配位子の芳香族環上置換基を電子供与基や電子吸引基を芳香族環に有する系を併せて合成した。さらにPhebox-Ru系触媒では芳香族環にカルボニル基やヘテロ原子が直結した農薬系でハロゲンを利用することなく直接的にオルトメタレーションを経由してカルボニル基末端を有する側鎖を導入する検討を行う。加えて新規有機金属化合物はNMRやX線構造解析によってその錯体構造を精査できた。 (2)ハプテン合成:上記で得られるPhebox- または Pheox-Pd系または Pheox-Ru触媒、さらに最近開発に成功した新規合成法を含むマクロ多孔性架橋教重合体触媒を用いて殺菌剤農薬とのヘック-溝呂木反応やカルベン挿入反応などによりハプテング群を合成した。カルベンヘック-溝呂木反応の場合は、触媒はPhebox-Pd触媒以外にも古典的な既知パラジウム系を同時に精査し効率のよい系を見出した。その結果、ハプテン群の合成手法の確立に成功し、クロロタロニル、ボスカリド、イソキサチオン、イミダクロプリド、フェンバレレート 2種(COOMe, COOH)、アセタミプリド、アゾキシストロビン、クロルフェナピル等、総計15種類合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終目的、すなわち残留農薬検査キットの開発を達成するための第一段階は、精密有機合成化学を基盤としたハプテン群の全合成であり、第二段階は抗体作作成である。ハプテン合成はELISA法による標的農薬の選択的定性・定量を達成するために、リンカー導入分子の設計が極めて重要である。実用に耐えうる感度(ppbレベル)の抗体が得られるまでハプテン合成の最適化を行うと同時に、適切な抗体が得られたときはと直ちにキット化し実用化する。平成26年度目標ではハプテン合成のためのリンカー導入技術の確立と、精密有機合成化学を基盤としたハプテン群の全合成を行うことを目標とした結果、いずれも目標を達成し、なおかつ15種類の農薬ハプテンの合成に成功した。以上の理由で平成26年生初期目標を上回っていると判断される。 具体的には、ハプテン群を触媒的反応を利用して合成した。即ち、オキサゾリニルフェニルパラジウム(Phebox- or Pheox-Pd)がハロゲン化アリールとアリールボロン酸との反応において触媒作用し効率的にアリール/アリーカップリング生成物が生成する。この触媒を用い、ヘック-溝呂木反応や薗頭反応に応用が可能であることを見出し、触媒効率も同様のレベルであることを確認した。従ってPhebox- あるいは Pheox-Pd触媒によって様々なアリールハロゲン構造を有する殺菌剤、殺虫剤などのアクリル系カルボン酸リンカーを導入できた。さらに、触媒的炭素-炭素結合生成反応においてジアゾエステル類の触媒的カルベントランスファー反応においても優れたルテニウム系触媒を見出した。二重結合や活性水素を室温においてさえも高効率で進行し相当するシクロプロパン化合物や、炭素―ヘテロ原子結合を含む生成物を与える。このルテニウム触媒はPhebox-Ruであり、リンカー導入が可能であることから、ハプテン群合成に応用できた。
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今後の研究の推進方策 |
【モノクロナール抗体作製】標的低分子農薬である有機化合物を担体蛋白質に共有結合させて高分子標的に変換し、これを免疫源とする。暫時得られたハプテン群はマウス免疫により抗体作成を行なう。初期段階で得られる抗体はマルチクロナール抗体で感度が低いため、標的抗体のみを単離し細胞融合により増殖させモノクロナール抗体を単離精製する。得られた抗体はモノクロナール抗体として標的農薬の分子センサーとして免疫測定法が完成する。このプロセスにより農薬ハプテン合成―タンパクとの融合―マウス免疫―抗体作成―農薬分子センサー化および工業化(キット化)を行う。高分子量の担持用タンパクにリンカーの導入を検討する。すなわち、タンパクの部分構造であるアミノ基やカルボキシル残基にリンカーを導入し(主に縮合反応を用いる)、続いて標的農薬官能基群とのカップリングを試みる。この発想は新規であり報告例はない。しかし農薬ハプテン分子の全合成や合成的修飾よりも実験的に遥かに簡便で、免疫用のタンパクとの標的農薬ハプテンとの融合体が容易に提供できるため迅速に抗体作成が完成する可能性があるため精査する。 【標識農薬ハプテン合成】抗体作成にともない標識農薬ハプテンが必要でありこれらを合成する。標的はイソキサチオン誘導体の合成、イマザリル誘導体、トリフルミゾール誘導体、フェニトロチオン誘導体、マラチオン誘導体、クロロタロニル誘導体、ボスカリド誘導体、フィプロニル誘導体などの農薬ハプテン合成を随時行う。これら一群の農薬は近年、最も社会的要求度の高い農薬である。誘導体合成は20化合物の合成を目的とし行う。現在、最も重要な23種の標的農薬に対応する特異的な抗体が完成しており、実質的に現在使用されている他の20種類の抗体の作成が完成すればすべての国内市販農薬の簡易分析が完成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体提供の費用ならびにハプテン合成費用が安価に入手できて1,176,972円の繰り越しが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
抗体作製の費用ならびにハプテン合成費用に使用する。
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