本研究では色素増感太陽電池の電子移動過程の完全解明を目的とする。色素増感太陽電池は主にナノ多孔質状の酸化チタン電極、その表面に吸着した有機色素、レドックス対を含む電解液から構成されている。光照射下では色素中の電子が励起し、酸化チタンへ注入され、色素中に生成したホールは電解液中のレドックス対によって還元される。この過程における高効率太陽電池の条件は、酸化状態の色素と酸化チタンへ注入された電子の再結合速度がレドックス対による酸化状態の色素の還元速度よりも遅いことである。そこで色素の構造とこれら二つの電子移動速度の関係を明らかにすることが色素の設計に必要である。この電子移動機構を解明するために、H26年度とH27年度において、酸化チタンへの吸着角度が異なる3種類の色素と、酸化チタンと色素の間の電場に影響を与える4種類の色素を合成した。またH28年度では、いままでに立てた仮説を検証するために、色素の電解液側に部分電荷を持つ部位を持つ色素を合成した。さらに過去に合成したパイ共役の長さやドナーの構造が大きく異なる色素も加えて、それらを用いた太陽電池中の電子移動速度を測定した。その結果、酸化チタンの表面に対して平行に吸着する色素は酸化状態の色素への再結合が遅いだけではなく、50度の温度変化に対してもほぼ変化しないことが分かり、再結合パスが複数あることが示唆された。また色素と酸化物の電子軌道のエネルギー差に加えて、吸着基付近の色素の部分電荷が、酸化状態の色素への再結合速度に影響を与えることが実験から示された。仮説を検証する色素を用いた実験では、色素の電解液側の部分電荷は確かに電解液中のカチオンの種類によって異なる影響を太陽電池の性能に与えることを示したが、詳しい検証はDFT計算と電子移動速度の測定を今後行う必要がある。
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