研究課題/領域番号 |
26288090
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺尾 潤 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00322173)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 被覆型分子ワイヤ / シクロデキストリン / 導電性高分子 / 分子エレクトロニクス / 燐光 / 分子内自己包接 / 量子収率 / 遷移金属錯体 |
研究実績の概要 |
被覆型分子ワイヤを機能性分子素子へと発展させるためには、目的や配線距離に応じた様々な配線材料を構築する、汎用的な合成法の開発が不可欠である。そこで、被覆型分子ワイヤを等差的に伸張するプログラム合成法を開発した。本反応は、逐次的なカップリング反応における溶媒条件を切り替えることで、各伸長段階における包接/非包接構造を選択的に構築し、被覆箇所と共役長が高度に制御された被覆型共役分子を得た。多様なワイヤ長と被覆構造を有する共役分子を系統的に得る本手法は、配線距離や分子間相互作用を高度に調節可能な配線材料合成法として、分子エレクトロニクスにおける新しいプラットホームになることが期待される。続いて、加熱のみによって共役分子を包接、速度論的に安定な被覆型共役分子を得る、分子内スリッピング法に関する詳細を探索し、その一般性を明らかにした。速度論解析の結果、本手法は従来法に比べて、速度論的な安定性が約50倍向上していることが示された。本手法によって合成した被覆型白金アセチリド錯体は、強い燐光発光を示し、その量子収率は被覆によって向上することが示された。これは、三重項励起状態が分子の熱運動によって失活することを抑制したためであり、燐光発光量子収率の温度依存性からその効果が実証された。また、ヘテロ環を導入することで、軌道エネルギーを大きく変化させ、発光色を緑色から赤色へと変化させることも可能となった。これらの燐光発光は、被覆によって固体中でも失活することなく発現したことから、発光色をチューニング可能な個体燐光材料としての応用性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、分子配線材料である被覆型分子ワイヤにおける、新規合成法の開発や新規機能性の開拓を行った。配線距離や分子間相互作用を高度に調節可能な材料合成法を開発すると共に、金属含有被覆型分子ワイヤの遷移金属錯体をセンシング部位として用いることで、金属錯体と被覆構造が協同的に作用した新規ガスセンサ材料としての応用性を見出した。加えて、無機電極表面上に導入した被覆型接合分子を、基板上でのカップリング反応による伸長を達成するなど、分子デバイス分野において著しい成果を上げている。また、機能性分子デバイス実現における課題とされてきた、機能性と伝導性を両立するための新規方法論を確立した点は、特筆すべき成果である。以上のように、本研究で見出した数々の知見は、機能性配線材料という観点に加えて、超分子化学分野においても従来にないものであり、研究開始時と比べ期待以上の研究の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
主鎖骨格をOPEからオリゴパラフェニレン(OPP)、オリゴフェニレンビニレン(OPV)、オリゴチオフェン(OTh)へと変換した被覆型分子ワイヤへと展開し、配線材料として最適な主鎖骨格を調査する。これら系統的な探索により、高い電荷移動度を発現する配線材料の設計指針を提示する。さらに得られたポリマーに対し、燐光発光・酸化還元挙動・スピン特性の3つに注目し、遷移金属由来の各種物性を評価する。まず燐光発光については、炭素共役部位と金属部位との軌道準位を制御することにより、三重項励起状態が被覆によって安定化し、燐光が長寿命化される系の実現が期待される。また、酸化還元およびスピン特性としては、電圧や磁場といった外部刺激による分子内電荷移動度の変化を評価する。この変化は配線時におけるスイッチング機能へと展開される。続いてナノ空間内における新規配線手法の開発を試みる。ナノ電極間で被覆モノマーと金属錯体を錯化重合させることで、電極間に分子ワイヤを構築し結線させる。さらに、配位結合を用いた重合は可逆的な結合形成であるため、通常の重合配線よりも高効率で配線されることが期待できる。ナノ金電極に対し、金-硫黄結合により電極表面にSAM膜を形成させ、ピリジル基を導入する。その後、電極存在下において分子ワイヤの重合反応を行うことで、両側の電極から分子ワイヤが伸長し結線される。電極間に構築された分子ワイヤは導線としての役割だけでなく、発光や、酸化還元・磁場といった外部刺激に対するスイッチングなど、遷移金属に由来する有用な機能の発現が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に変更が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
ドラフトチャンバーの購入に充てる予定である。
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