研究課題/領域番号 |
26288093
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
若宮 淳志 京都大学, 化学研究所, 准教授 (60362224)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | π共役 / 有機半導体 / ペロブスカイト太陽電池 / 有機色素 / 近赤外発光 |
研究実績の概要 |
当該年度は、準平面型構造をもつ骨格およびT字型構造をもつ骨格の合成に取り組み、以下に示す成果を得た。 1)準平面構造をもつ骨格として、トリフェニルアミンの三つのベンゼン環のうち二つを酸素で架橋した構造を設計.合成した。本骨格をもつ一連の二量体化合物を正孔輸送製材料として合成し、それらの基礎物性を評価したところ、いずれの結晶構造でも、ねじれた準平面構造が分子間ではまり込み形でon-tip型でπスタックするという構造特性をもつことが確認され、準平面構造に由来した構造特性の一般性を検証することができた。TRMC測定により電荷移動特性を評価したところ、このπスタック方向に高い電荷移動特性を示すことが確認された。さらに本分子設計を応用し、アズレンを核骨格に用いてこれに4つの酸素架橋型トリフェニルアミン骨格を導入した化合物を合成した。本化合物をペロブスカイト型太陽電池のp型バッファ層に用いたところ、従来の標準材料(Spiro-OMeTAD)に比べて、開放電圧および曲線因子が顕著に向上し、14.8%の光電変換効率を得ることができた。 2)また、可溶性のT字型骨格として、チアゾール縮環型のベンゾチアジアゾール誘導体を設計し、その効率的な合成法について検討した。その結果、チアゾール環の構築に、フェリシアン化カリウムを用いた酸化的環化反応が有効であることを見出し、86%の収率で目的の化合物を得ることができた。本骨格を電子受容性骨格に用いたD-A-D型の化合物を合成したところ、これらは本骨格の高い電子受容性を反映して、600-634 nmに吸収極大を示し、近赤外領域に発光を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、研究計画に従い、準平面型構造をもつ化合物およびT字型構造をもつ骨格の効率的合成に取り組んだ。いずれも効率的な合成法の開発に成功している。また、これらの骨格を用いたモデル化合物の合成とその基礎特性評価にも取り組み、基本骨格がもつ特異な電子的・構造的特性に基づいた物性発現を確認することができた。 さらに、得られたいくつかの標的化合物に関しては、計画を前倒しして、これらを用いたデバイスの作製とその特性評価にも取り組んだ。特に、準平面型構造をもつ骨格では、二次元型に拡張した可溶性有機半導体材料を合成し、これをペロブスカイト太陽電池のp型材料に用いることで、光電変換効率が顕著に向上することを見出した。 また、T字型構造をもつD-A-D型のモデル骨格においても、光吸収特性を評価したところ、T字型骨格がπ共役のジャンクションとして機能し、二つのπ-π*遷移に基づいたマルチバンド光吸収特性を示すことを確認することができた。 計画を前倒しして検討したこれらの物性評価およびデバイス特性評価に関する成果は、本研究で提案する分子設計の有用性を示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度で得た成果をもとに、今後はさらにπ共役を拡張した分子群の合成とそれらの物性評価に取り組んでいく。 準平面型構造をもつ骨格に関しては、これらを一連のスペーサー骨格と連結してポリマー化した材料開発に取り組み、ペロブスカイト太陽電池のバッファ層としての応用展開を中心に検討を進める。特に固体状態での分子の配向と電子構造の制御に焦点をあてて、電荷移動特性および電荷回収効率の向上に基づいた光電変換効率の向上を目指す。 また、T字型構造をもつ骨格に関しては、これらを用いて二次元型に拡張したオリゴマーおよびポリマーの合成に取り組む。特に、本骨格の高い電子受容特性を活かして、D-A型の光吸収性有機半導体材料の他、空気中でも安定に機能する可溶性のn型半導体材料の開発にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的化合物の効率的な合成法を見出すことができたため、合成試薬として計上していた消耗品の支出を抑えることができた。一方で、蛍光量子収率測定の積分球が化合物で汚れてしまい、装置のメンテナンスが必要であったが、年度末を避けて、新年度に修理を行うことになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
蛍光量子収率の積分球のメンテナンス費用および合成試薬等の消耗品を購入する予定である。
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