研究課題/領域番号 |
26288096
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
木原 秀元 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能化学研究部門, 研究グループ長 (60282597)
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研究分担者 |
秋山 陽久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能化学研究部門, 主任研究員 (80356352)
下位 幸弘 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, 研究チーム長 (70357226)
則包 恭央 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 研究グループ長 (50425740)
松澤 洋子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能化学研究部門, 主任研究員 (10358020)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光化学 / 相転移 / 有機材料 / 計算科学 / 分子動力学 / DFT計算 |
研究実績の概要 |
実験的手法では、糖アルコール骨格をもつ多官能アゾベンゼン誘導体について、その光固液相転移メカニズムを明らかにすることを目的として研究を進めた。26年度の分光学的な検討から、アゾベンゼン部分の会合体形成の有無が光可逆相転移挙動に関係していることが分かっている。27年度では、会合体の形成について紫外可視吸収スペクトルのあおり角測定や、FT-IRの高感度反射測定との組み合わせなどでより詳細な分析を行った。その結果、相転移の有無に関してアルキル基のパッキングよりも、アゾ色素部分の会合形成が支配的関与していることを確認した。また、材料骨格として糖アルコールではなく高分子系についても検討を進めた。これまで高分子系では分子量の制御ができないデメリットがあって糖アルコール系での検討を進めてきたが、リビングラジカル重合法を適用することで重合体の分子量制御を行った。 一方、計算科学的手法として、アゾベンゼン系分子に対して、会合状態が光学吸収スペクトルに及ぼす影響を理論的に明らかにすることを目的に、結晶構造での分子配置をとる分子ペアに対し励起子カップリングを時間依存DFT法で計算し、結晶状態での吸収スペクトルを理論的に求めた。その結果、π-π*吸収バンドは、実験結果と同程度の幅を与え、バンド内に異方性を有することが示された。 また、理論と実験によるデータを比較するために結晶構造が既知である単純な分子構造を持つアゾベンゼンの単結晶薄膜を作成し、その光学吸収スペクトルの実測について検討した。その結果、長波長側のn-π*バンドについては観測することができたが、短波長側のπ-π*バンドについては、吸光係数が大きいため吸収強度が飽和した。今後はさらに薄い薄膜を作成する予定である。さらに、同じ化合物の結晶では、光照射によって結晶の移動現象が観測されるが、結晶の移動および形態変化は、連続的な相転移によるものであると結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は産総研が中長期計画第3期から第4期に移行した。それに伴い本研究課題に参画しているメンバーも所属が変わったり、主任研究員から研究グループ長に昇格するなどし、新しいユニットやグループの設計や立上げなどに相当のエフォートを割かれてしまった。そのため本研究課題に取り組む時間が十分にとれず、進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、可逆的固液光相転移のメカニズム解明に取り組む。照射波長の制御によって異性化率と相転移挙動との相関を調べ、相転移が起こる時の異性体比について明らかにする。また重合体の合成に成功したので、より高分子量側で、相転移挙動にどのような影響を与えるかを検討する。当初計画していた測定法だけではなく、研究を進める中で必要となった新たな固体物性情報を得るために産総研内でアクセス可能なさまざまな測定装置を用いると同時に、依頼測定なども予定している。また、計算科学においては、結晶中の励起子カップリングに関して詳細に調べる。これらの結果により可逆的固液光相転移のメカニズムを解明できれば、光相転移の律速段階となる反応素過程が明らかとなり、高速相転移実現に向けた材料の設計指針が示されると予想される。例えば、分子骨格構造や分子量、また1分子中に導入するアゾ基の数、アルキル置換基の長さ等、単一分子の最適構造が明示されれば、その合成を目指す。加えて、単一分子構造・結晶構造・光相転移速度の相関の解明を目指す。あるいは、解明されたメカニズムによっては、単一分子構造のチューニングだけでは高速光相転移が達成されない可能性もあると考えられる。その場合には、複数種類の官能基を導入した異性体からなる複合材料も併せて検討していくことになる。結晶性の化合物については、単結晶構造解析により分子集合構造を明らかにする。 また、分子配置が光学吸収スペクトルに及ぼす影響について理論計算を進め、実験と比較する。計算手法として、時間依存密度汎関数法(TD-DFT法)または時間依存ハートリーフォック法(TD-HF法)を用いる。次に、DFT法または分子動力学計算により、トランス-シス転移が結晶などの分子集合構造体のような空間的に制限された環境が与える影響について検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
産総研が中長期計画の第3期から第4期に移行し、研究員がそれぞれ、移行に伴う多大な業務をこなす必要があった。そのため本研究課題にかけるエフォートが割かれ、旅費や消耗品など予想していた予算の執行ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の遅れを取り戻すべく、3つの研究室でそれぞれテクニカルスタッフを雇用し研究を加速する。
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