研究課題/領域番号 |
26288097
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中嶋 健 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90301770)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / ナノ触診 / 粘弾性計測 / 温度時間換算則 / 正接損失像 |
研究実績の概要 |
本研究では弾性率や凝着エネルギーなどの力学物性値をナノスケールの空間分解能で画像化できる、研究代表者がこれまで開発してきたナノ触診原子間力顕微鏡(ナノ触診AFM)を粘弾性計測が可能となるように発展的に拡張することを目的にしている。具体的には6桁におよぶ広帯域の周波数掃引を行えるようにし、それによって線形粘弾性理論の根幹である温度時間換算則における最も重要なパラメーターであるシフトファクターを、巨視的な粘弾性計測装置が計測するそれよりも精密に計測することを目指している。平成27年度は前年度に開発した手法すなわち圧電スキャナーと試料の間に電気的に独立している高周波帯域のピエゾアクチュエータを導入し、完全に外部から駆動するという手法の動作確認およびスチレンブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム/イソプレンゴムブレンド試料およびそのフィラー充填試料をモデル試料として、その周波数応答を測定した。 字数の関係から結果の一部についてしか報告できないが、例えば500 Hzの微小振動に対する損失正接像では、カーボンブラック充填スチレンブタジエンゴムの界面領域で損失正接の値がマトリックス領域よりも低くなっていることがわかった。さらにマスターカーブ測定からは基準温度を同じ値に設定した場合、損失正接のピークが界面では低周波数側にシフトしていることもわかった。界面領域の粘弾性情報はゴム業界、特にタイヤ業界がその開発の現場で最も欲している情報のひとつであるため、このような結果が得られた波及効果は大変大きいものだと考えている。なおこの内容については技術情報協会から2016年1月に発刊された「動的粘弾性チャートの解釈事例集」という書籍に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度交付申請書に記載したモデル試料に対する広帯域周波数応答測定は完全に完了することができた。その結果、二度の国際会議での招待講演でその成果について発表することができた。書籍にも、本手法の原理から応用までを含める形で内容紹介することができた。
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今後の研究の推進方策 |
長時間測定となるために問題となる装置の安定性について、H27年度交付申請書に記載した「クローズループ型圧電スキャナーを本目的のために動作させられるようなコントロールシステムを導入する」という技術的な課題については原理的な困難に伴い、まだ実現の途上にある。そこで方針を変更し、どのプロセスが時間を要しているのかを今年度後半に洗い出し、結果として既存原子間力顕微鏡と独自作成のナノ触診用プログラム(LabVIEWベース)の通信に最も時間を費やしていることが判明した。この部分の改良は来年度に引き続き解決を試みる予定である。 また最終目標である「温度時間換算則における最も重要なパラメーターであるシフトファクターを、巨視的な粘弾性計測装置が計測するそれよりも精密に計測し、真の分散地図を描く手法として昇華させるためには温度コントロールが必要不可欠である。現状のシステムでは原理的に温度コントロールが不可能であり、H28年度はH27年度に引き続きH26年度に購入した高速スキャンモードオプションを改造し、ナノ触診AFM粘弾性計測拡張版Version 2を実現する必要がある。既にその準備は進めているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず本年度中に所属が変更となったことが理由として大きい。移設作業に伴い、開発したシステムでの動作確認実験等は計画通り行えたが、さらなる装置開発にかけられる時間があまり取れなかったため、問題の洗い出し作業しか完了できなかった。そのため本年度中に購入予定であったクローズループ型圧電スキャナー用コントロールシステムの導入は断念せざるを得なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
問題の洗い出し作業の結果、スキャナー用コントロールシステムの導入よりは、既存原子間力顕微鏡と独自作成のナノ触診用プログラム(LabVIEWベース)の通信部分を改良する方が有望であることがわかったため、現有のLabVIEWベースをアップグレードすること、および通信速度の速いロックインアンプシステムを導入することを計画している。
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