研究課題/領域番号 |
26288104
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
本橋 輝樹 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00323840)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | セラミックス / 酸素貯蔵材料 / 水素ガス製造 |
研究実績の概要 |
本研究では、工業的に利用可能な温度範囲(1000℃以下)で水を熱化学分解して水素ガスを発生させる機能性セラミックス:「酸素貯蔵材料」の設計・開発を行った。具体的には、層状遷移金属酸化物に着目し、当該物質の酸化還元特性を結晶化学に基づき精密制御することにより、より低温で水素製造サイクルを実現する革新的材料の創出を目指した。以下に主な研究成果を示す。 当グループが開発した酸素貯蔵材料BaYMn2O5+δについて、水素生成反応活性に対する希土類元素(Ln)置換効果を検討した。BaYMn2O5およびそのLn置換体BaLnMn2O5 (Ln=La, Nd, Gd)を500℃で水蒸気と接触させ、本化合物の水還元による水素生成活性を調べた。その結果、Ln=Laで最も速い水素生成反応が見られた一方、Ln=Yではほとんど水素生成が観測されず、反応活性がLn種に強く依存することを明らかにした。 閉鎖系とした反応装置内に一定量の水蒸気を導入し、500℃で加熱した試料と接触させた。生成する水素量の経時変化を調べ、一定になったところで平衡と仮定し、水還元による水素生成の平衡定数とギブズ自由エネルギー変化ΔGを算出した。Ln=Nd, Gd, YではΔGが正の値を示すのに対しLn=Laでは負の値が得られ、標準状態においても水を還元し水素を生成できることが分かった。 BaYMn2O5+δの高温結晶構造を調べるため、750℃で酸素濃度を精密に制御しながら放射光XRD測定を行った。酸素濃度が1000Paから10Paへ低下するに伴い不連続な構造変化が観測され、僅かに酸素欠損を含む「δ=1相」から酸素欠損が秩序化した「δ=0.5相」へ相転移し、同時に急激な酸素放出が起こることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究の目的」を目指して、当年度は次に挙げる研究を計画した:(1)ダブルペロブスカイト型BaYMn2O5+δの酸化還元特性に対する元素置換効果。(2)放射光を用いた高温XRDによる酸素吸収放出サイト周りの局所構造解析。(3)量子化学計算による実験データの妥当性検討。 (1)については、酸素吸収放出サイトに隣接するLn置換が水素生成反応活性に強い影響を与えることを実験的に確認した。(2)では、放射光XRDによる高温結晶構造解析により、顕著な酸素吸収放出(酸化還元反応性)に対する結晶化学的要因を特定した。また(3)については、現時点では予備的なデータではあるものの、Ln種の違いによりBaLnMn2O5+δの酸化還元活性が大きく異なることを量子化学計算で立証している。以上より、当初の計画に従いおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
水素製造サイクル実現のための材料開発 水素製造サイクル(水の還元+酸化物の熱再生)に最適化したオンデマンド材料を創出する。結晶構造化学に基づく材料テーラリングと酸化還元種である遷移金属元素の複合化を組み合わせて、多角的な化学組成制御により酸化還元特性の最適化を図る。 各試料について、次に示す化学組成・結晶構造キャラクタリゼーションを実施する。(i)ICP発光分析による金属組成の定量と、酸化還元滴定による酸素含有量の決定。(ii)粉末XRDによる結晶構造の精密化。必要に応じて放射光XRDの利用。(iii)X線吸収分光による遷移金属イオン価数状態の決定と局所結晶構造の検討。続いて、酸化還元特性を評価し、候補材料の水素生成活性と熱還元性を確認し、候補材料を選定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主に下記2つの理由により本年度支出が縮小し、次年度使用額が生じた。(1)当初着目していた材料の実験が順調に進んだため、別材料の合成・評価実験に手を伸ばす必要がなくなった。(2)2014年9月に国内主要学会での招待講演(口頭40分)をすることができ、また有力雑誌からの招待論文寄稿の誘いを受けたため、海外での国際会議への出席を見送った。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究を推し進めるため、幅広い種類の化合物の合成・評価を計画しており、当該助成金の一部はその消耗品費に充てる。また、研究成果を発信するため国際学会への参加を検討する。
|