研究課題/領域番号 |
26288105
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 高広 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10358260)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱電材料 / 金属間化合物 / 結晶構造解析 / ジントル化合物 |
研究実績の概要 |
初年度は,主にNaと13族元素(Al, Ga),14族元素(Sn)で構成される3元系ジントル化合物を対象にして,新規熱電材料としての可能性を検討した.その結果,これまで結晶構造のみが報告されていたNaGaSn2の多結晶焼結体試料が,室温(295 K)でガラス並みの低い熱伝導率(1.1 W/mK)を示し,その結果,n型の高い熱電特性(無次元性能指数ZTは最大で0.56)が実現していることを明らかにした.この値は,キャリアー濃度の調整や合金化によって特性の最適化が行われている高性能Bi2Te3系材料の熱電特性(ZT~1)に近く,本化合物も,今後,キャリアー濃度等を最適化することで,その特性の向上が期待できる NaGaSn2のX線単結晶構造解析の結果,本課題で合成されたNaGaSn2は,これまで報告されていた斜方晶系とは異なり,六方晶系であることが明らかになった.結晶構造は GaとSnで構成される骨格構造内のトンネル状の空隙にNaが統計的に配置しており,このNaが大きな熱振動(ラットリング)を起こすことで,フォノンを散乱し,熱電特性を向上させる低い熱伝導率が実現していると考えられた.また,Na-Ga-Sn系およびNa-Al-Sn系において,それぞれ1つの新規3元系化合物を発見し,それらの結晶構造や基礎的な電気・熱特性を明らかにした. 本年度は,ゼーベック係数,電気伝導率,および熱伝導率の計測システムを不活性雰囲気中のグローブボックス内に整備・構築した.これにより,試料を大気暴露することなく熱電特性を評価し,無次元性能指数ZTを算出することが可能になった.特に,これまでに困難であった大気中で不安定な試料の熱伝導率の計測が,ホットディスク法による熱伝導率測定によって実現できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は,材料としての探索や評価が十分に行なわれていないアルカリ金属を含む多元系ジントル化合物を合成し,それらの熱電特性を評価することで,優れた性能を有する新規熱電材料の探索を行なうことである.初年度の研究では,これまでに熱電特性が評価されていなかったNa-Ga-Sn系化合物の多結晶焼結体試料を合成し,その熱電特性が,現在,室温付近で使用される実用材料であるBi-Te系化合物の特性と,同等もしくはそれ以上となる可能性を明らかにすることができた.作製された試料の特性の再現性など,今後,解決する課題はあるものの,研究は概ね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に見出した高いn型の熱電特性を有するNa-Ga-Sn系化合物に関して,基礎と応用の両面から研究を進展させる.具体的には,Na-Ga-Sn系化合物の熱電特性と原料や試料の化学組成の関連性を明らかにすることで,現時点で問題となっている高い特性を有する試料合成の再現性を高める.Na-Ga-Sn系化合物に対して異種元素のドーピングを試みることで,キャリアーおよびその濃度を変化させ,熱電特性のさらなる向上や,p型の熱電特性を発現させることを試みる.また,インゴット試料や大型の単結晶試料の作製を行い,初年度で合成に成功している焼結体試料よりも高特性の試料を得ることも目指す.単結晶X線回折実験を通して,Na-Ga-Sn系化合物の結晶構造を詳細に解析し,特にNa原子のラットリング現象について調べることで,この化合物が高い熱電特性を示す原因である低い熱伝導率の起源を明らかにする. Na-Ga-Sn系化合物と同型または類似構造の化合物にも,高い熱電特性が期待される.そのため,それらの結晶構造に該当する新規Na-Al-Sn系化合物と,これまでに熱電特性が明らかにされていないNa-In-Sn系, およびNa-Zn-Sn系化合物について焼結体試料やインゴット試料の合成を行い,初年度で構築した不活性雰囲気下でのゼーベック係数,電気伝導率,および熱伝導率の計測システムを利用して,熱電特性の評価を行い,これらの化合物の新規熱電材料としての可能性を明らかにする.また,それぞれの化合物に対して単結晶X線回折測定を行い,Na原子のラットリング現象の有無を調べ,各化合物の熱伝導率との関連性も調査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題申請時に,購入予定物品として『ホットディスク法熱物性装置』と『熱電特性評価装置』を計上していたが,採用された課題に対する交付金は申請金額よりも少なかったため,両装置を購入することは不可能であった.幸い,研究代表者の共同研究者から『ホットディスク法熱物性装置』の使用許可を得ることができたため,『熱電特性評価装置』のみを購入し,研究を進めることができた.初年度の主な残予算は,その差額によるものである.
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次年度使用額の使用計画 |
初年度の成果として,Na-Ga-Sn系化合物で高い熱電特性を有する化合物を見出し,その多結晶焼結体試料を作製することができた.この成果に対する現時点での課題としてA.高特性を示す試料の再現性,B.熱電特性の向上,C.単結晶およびインゴット試料の作製,D.単素子としての熱電発電特性評価が挙げられる.次年度は,申請時の計画どおり,Na-Ga-Sn系以外の系(例えばNa-In-Sn系)における材料探索も進めながら,先挙げた課題A-Dの克服に挑戦する必要がある.次年度使用額は,申請時に予期していなかった先の課題の克服に必要な大型のルツボ等の消耗品や試料の切削治具,また,新たに作製する必要のある発電量評価装置を構成する具材や計測機器に使用し,研究を進展させる.
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