研究実績の概要 |
最終年は,高いn型の熱電特性(ZT=0.98, 295 K)を示すものの,特性の再現性が乏しかったNaGaSn2について合成条件等を詳細に検討し,その再現性や特性の向上を目指した.高い熱電特性を示す焼結体試料を再現よく作製する条件は見出せなかったが,一部の試料は,これまでとほぼ同様の高いZT(約1.0, 295 K)を示した.また,NaGaSn2の焼結体試料のZTと電気伝導率には強い相関が存在し,電気伝導率が1~3 mΩ cmの試料のみが高いZTを示すことを明らかにした.これらのことから,試料間の特性の相違は,キャリア濃度の違いによるものであることが強く示唆された. NaGaSn2およびNaAlSn2に対して,キャリア濃度の制御を目指して元素置換した焼結体試料を作製したが,大幅な特性の向上は実現できなかった.有効なキャリアを導入できるドーパントを見出すことが今後の課題である. NaGaSn2やNaAlSn2に類似したトンネル構造を有するNa2ZnSn5の二つの多形(安定相と準安定相)のそれぞれの相に対して,原料の加熱条件ならびに冷却条件を精査することで,理論密度の95~99%のインゴットを合成することに成功した.両相ともに熱電特性はn型で,295 Kにおける安定相(NaGaSn2の類似構造)のインゴットのZTは0.03,準安定相(NaGaSn2と同型構造)のインゴットのZTは0.2であった.Weidman-Franz則から各相のキャリアーの熱伝導率を算出し,全体の熱電伝導率から差し引くことで見積もられる格子熱伝導率は,安定相が約0.6 W/(m K),準安定相が約1.0 W/(m K)とガラス並みの著しく低い値であった.緻密なインゴットの熱伝導率を測定することで,本研究課題で見出したトンネル構造を有する化合物群が低い熱伝導性を示すことが証明することができた.
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