研究課題/領域番号 |
26288111
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
唐津 孝 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70214575)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光デバイス / 半導体デバイス / OLED / 有機EL / 発光材料 / 材料化学 |
研究実績の概要 |
シクロメタレート型イリジウム錯体は極めて高い効率でりん光発光を示し,近年,有機EL(OLED)素子の発光材料を中心に,基礎,応用面から活発に研究されている。本研究ではフルカラー全りん光型OLEDデバイスを作成するためにクリアすべき課題に対して材料科学的視点に立って研究する。主に以下の4項目を掲げて研究した。①発光材料の発光過程と競争する無輻射失活過程の学理を解明し,発光効率および耐久性を最大化する分子デザインの指針を構築する,②デバイス内で起こる発光ドーパントの酸化還元過程を理解し,材料の安定性を高める,③デバイス化に重要な分子配向を制御する基盤技術を開発し,分子配向技術を評価する,④センサー,イメージング材料としての機能化を図る。 平成27年度では主に項目①,③と④について研究したのでその概略を記す。 発光に関与する基底状態,最低励起三重項状態に加え,dd*状態が無輻射過程として重要でありその役割を解明した。特に発光色により発光にかかわる三重項状態のエネルギーレベルが変わり,それに伴って無輻射失活,dd*状態を経た結合開裂を伴った失活過程がどのように変わるかをカルベン錯体などの錯体において活性化エネルギーの測定から明らかにした。特に,トリスシクロメタレート型錯体の二つの幾何異性体,fac体とmer体ではdd*エネルギー準位からの幾何・光学異性化の機構について明らかにした。特に発光色と,dd*エネルギー準位には相関関係があるが,光異性化反応の間には分子構造の立体効果などを加味して考察しなければならないことを明らかにした。 非発光性補助配位子としてピコリン酸誘導体を選択しオキシムエステル基と連結することで三重項エネルギーを効率よく補助配位子に導いて,ラジカル開始剤として利用できることを明らかにした。この方法は,塗布法を用いた新たな発光層形成プロセスとして有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
達成度の区分を選択した理由について以下に述べる。平成27年度は研究期間の中間年であったため,主に項目①,③と④について研究したので,その概略を以下に記す。 発光に関与する基底状態,最低励起三重項状態に加え,第三の状態であるdd*状態が無輻射過程として重要でありその役割を解明した。特に発光色が赤,緑,青と変わると発光にかかわる最低励起三重項状態のエネルギーレベルが変わり,それに伴って熱励起によりdd*状態への励起効率が大きく変わる。青色りん光錯体では熱励起されると結合開裂を伴って無輻射失活することをフェニルベンゾイミダゾリナトカルベン錯体やフェニルイミダゾリナト錯体において活性化エネルギーの測定から明らかにした。特に発光色と,無輻射失活過程に関連するdd*エネルギー準位には相関関係があるが,活性化エネルギーからは光異性化が予想される錯体でも実験的には異性化が観測されないなど,更に反応の詳細を分子構造の立体効果などを加味して考察しなければならないことが明らかとした。特に,二つの幾何異性体,フェイシャル体とメリディオナル体ではdd*エネルギー準位からの幾何・光学異性化の機構について大きな差異がありその際についての一般性を明らかにすべく,実験を継続している。 さらに,非発光性補助配位子としてピコリン酸誘導体にキシムエステル基を連結することで三重項エネルギーを効率よく補助配位子に導いて,ラジカル開始剤として利用できることを明らかにした。オキシムエステル基が分解した後,導電性のあるカルバゾリルメタクリレートと重合させることで発光層を形成させた。開始剤が分解し残存した錯体が発光ドーパントとして安定な発光層を形成させ利用でき,この方法は塗布法を用いた新たな発光層形成プロセスとして有用である。 以上に述べたように順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は研究期間の最終年であり,研究実績の概要の欄に記載した4つの主要な研究目的すべてに成果を上げるべく研究を推進し,成果を発表・報告する。 これまで合成したホモ錯体の中で高い深い青色の発光色と色純度を示したカルベン錯体について,そのメリディオナル―フェイシャル幾何異性体についてOLEDデバイスを実際に作製し,その性能を,色度,輝度,電流電圧曲線,発光効率などを用いて評価する。特に,デバイスの発光強度の時間依存性からデバイスの寿命・耐久性について評価する。 イミダゾリナト錯体では光学異性体であるデルタ体とラムダ体から成るラセミ体の単結晶X線構造解析することに成功した。その結果フェイシャル体では置換基として導入した1分子中3組のトリフルオロメトキシ基が層状に配列し分子配向を制御していることを単結晶X線構造解析により明らかにした。この結果に加え,トンネル顕微鏡(STM)を用いて薄膜状態でのデルタ体,ラムダ体の分子配列構造を詳細に調べ,分子配向と発光能との相関について詳細に解明する。その結果,光学分割したデルタ体,単独の薄膜を作製することで高い円偏光発光デバイスを作製できる可能性がある。 平成27年度は研究成果の公表・報告という点では十分な成果を残せなかったので,28年度は特にその点についても力を入れ,最終年に相応しい成果を達成する。
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