本研究の目的は、応力の影響を考慮した電気化学特性モデル(分極曲線モデル)を開発し、腐食電場の解析と応力・変形解析を連成させることである。これが可能になれば、腐食電場から腐食ピットの成長を予測し、更に応力腐食割れの発生などを力学的に検証できるようになる。 3年目の本年度は、実験データに基づき、応力依存型の分極曲線を完成させ、応力腐食割れにおけるき裂発生前の腐食速度を計測する予定であった。しかしながら、分極曲線の測定結果が安定せず、その原因究明に大半の時間を費やした。約40本の試験片を用いて、試験片形状、コーティング材、環境ノイズ低減などを検討した。その結果、環境ノイズを完全に遮断する必要があること、コーティング材を十分な厚さ(0.5mm以上)で均一に塗布する必要があること、冶具と試験片の接触部は約500N以上の負荷で絶縁性が低下するため、コーティングの上から更に補強が必要であることなどが分かった。これらを実現するため、実験手順が大幅に増加した。過去に取得した分極曲線は大きな誤差を含んでいるため、全て再実験を行った。これらの遅れにより、予定していた応力腐食割れ試験は実施できなかったが、鋳造アルミニウム合金の鋳肌、および鋳肌を取り除いた研磨面について、一定応力下での分極曲線と低速引張試験における腐食電位変化を取得することに成功した。これにより、鋳肌の有無を考慮した応力依存型の分極曲線モデルが作成可能となった。 実験担当に関しては、予定通り学生2名を配置できたが、解析担当には予定していた2名を確保できず、3年間を通じて1名体制となった。実験への支援も必要だったから、十分な開発時間を確保できず、予定していた境界要素電場解析と有限要素応力解析の連成解析コードは開発できなかった。ただし応力を負荷した際の分極曲線については、境界要素電場解析と実験結果の比較から、皮膜損傷の影響を検討した。
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