研究課題/領域番号 |
26289007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平方 寛之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40362454)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロ材料力学 / ナノ構造 / クリープ / 材料強度 |
研究実績の概要 |
表面の影響が支配的となるナノ構造体は,マクロな材料とは異なるクリープ特性を有する.研究代表者は,高融点材料であっても直径10 nmオーダーのナノコラム構造体では,室温下においてクリープが生じ,破壊へと至ることを発見した.本研究では,このナノ構造体特有のクリープ機構と構成則,およびクリープ破壊の支配力学の解明を目的とする.その解明のため,(1)高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)によるナノ構造体に対するその場観察クリープ実験方法を開発する.さらに,(2)ナノコラム試験片の形態を制御(曲がり部の付与など)することにより制御された局所力学場(応力集中場)を作り出し,異なる力学条件下でのクリープ実験を実施する.得られた実験結果を基にナノ構造体のクリープに関する力学基盤を構築する. 本年度は,ナノ形態制御ナノコラム試験片を作製し,前年度に開発したその場FESEM観察試験クリープ実験方法によりクリープ特性を評価した.クリープ変形の支配力学を解明するため,曲がり部を有する「くの字型」ナノコラム構造に対して,負荷方向を変えたクリープ実験を実施した.結晶金属であるTiおよび非晶質金属酸化物であるTa2O5のナノコラム試験片に対するその場観察クリープ実験により,クリープ速度とクリープ寿命に関するデータを蓄積した.さらに,FESEM内真空中と大気中で単調増加荷重に対する強度実験と一定荷重下におけるクリープ実験を実施することにより,ナノ構造体の強度とクリープ特性に及ぼす環境効果(真空環境と大気環境)を検討した.これらの実験により,真空中の破断強度が大気中に比べて30%~60%増大すること,および真空中のクリープ速度が大気中に比べて減速することを明らかにした.すなわち,水分や酸素などの大気環境がクリープ変形を促進する効果を示すことを解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度には,開発したその場FESEM観察実験方法により大気環境下に加えて真空環境下での強度実験およびクリープ実験を本格的に実施して,試験データを蓄積した.さらに,斜め蒸着法において基板上に作製した凹凸によって蒸着流のシャドーイングを効果的に制御する「基板形状援用斜め蒸着法」を用いて,寸法を制御したコラム試験片を作製した.基板形状と作製条件の検討により,直径が数10 nmから数100 nmの形態制御コラム試験片の作製が可能になった.また,これらの寸法制御試験片を用いて強度やクリープ特性に及ぼす寸法効果を解明するための実験方法に関する問題点の抽出と基礎的検討を行った. 以上より,本研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度であるH28年度には,引続きクリープ実験を実施するとともに,実験結果を総合的に検討して,クリープ構成則,寸法効果,およびクリープ破壊の力学的クライテリオンを解明する.具体的な方策は以下の通りである. (1)クリープ構成則の解明: 前年度に引き続き,開発したその場FESEM観察クリープ実験方法によりTiおよびTa2O5ナノコラムに対するクリープ実験を実施する.蓄積した形態制御ナノコラムのクリープ速度に関する実験結果をもとに,形状によって生じる応力分布を考慮した有限要素法クリープ解析を実施して,それらを比較・分析することにより,一般性のあるクリープ構成則を検討する.さらに,大気環境および真空環境下におけるクリープ特性を推定して,クリープ変形機構と環境効果を解明する. (2)クリープ特性に及ぼす寸法効果の解明: 基板形状援用斜め蒸着法を用いて,コラム寸法を大きくしたサブμmコラムを作製することにより,クリープ特性に及ぼす寸法効果を解明する.サブμmコラムに対するクリープ実験方法を確立して,寸法の異なるSiサブμmコラムに対するその場観察クリープ実験を実施する.実験・解析結果をもとに,クリープ特性に及ぼす寸法効果を解明する. (3)クリープ破壊の力学的クライテリオンの解明: 評価したクリープ構成則を考慮して,クリープ破壊が生じた局所の応力集中部における応力・ひずみ場の時間変化を解析する.実験によって得られた形態制御ナノコラムのクリープ寿命と局所力学量の関係を明らかにすることにより,ナノ構造体のクリープ破壊の支配力学則を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越し分は端数の少額であり,おおむね計画通り執行した.
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次年度使用額の使用計画 |
実験用消耗品に使用する.
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