研究課題/領域番号 |
26289019
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
松尾 繁樹 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (20294720)
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研究分担者 |
直井 美貴 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (90253228)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロ加工 / シリコン |
研究実績の概要 |
本研究では,シリコン基板に対して透明な波長(1.5 μm帯)の超短レーザーパルスを用いてシリコンの内部加工を行うことを目指している。ガラスなどの可視光に対して透明な材料に対して行われている,{超短レーザーパルスによる内部改質}と{ウエットエッチング}との組み合わせによるマイクロ流路の加工や,局所的な接合の実現を目指している。今年度はとくに,内部改質を行った部分のエッチングによる除去に関して,エッチング液組成の最適化を試みた。われわれは過去に,フッ酸と硝酸との混合液(フッ硝酸)が改質部の除去に適していることを報告した。フッ酸(HF)と硝酸(HNO3)との混合比(体積比)を変えたエッチング液を9種類調整し,フェムト秒レーザーで改質した試料をエッチングして,エッチング後の形状を観察した。その結果,HF:HNO3の比率が1:5のエッチング液が,もっとも選択性の高いエッチングを行うことができることを見出した。HF:HNO3の比率が1:5のエッチング液では,エッチング時間を増加するにつれて穴の深さが深くなり,最長4時間のエッチングで深さ約20 μmの穴を作製することができたが,それ以外の比率のエッチング液では穴の深さが10 μmを超えることはなく,また時間と共に穴が深くなる傾向も明確ではなかった。 もっと深い穴の作製,さらには自由な形状の空洞の作製に向けて,内部の改質状況について調べたところ,表面付近以外でははっきりした改質跡が観察されなかった。これについては今後引き続き検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2014年4月から研究代表者が異動し,新たな研究体制を立ち上げる必要があったため,研究の進行が当初の計画に比べやや遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
1.超短レーザーパルスとシリコン基板との非線形な相互作用について,基礎に立ち返った研究を行う。具体的には,電子物性の異なるシリコン基板(n型,p型,高抵抗)を用意し,z-scan法によって三次の非線形光学定数を評価する。加えて,レーザー光によって改質が生じる閾値を比較する。電子物性と非線形光学効果との関連はこれまであまり評価されておらず 2.シリコン基板内部を改質するためにレーザー光を集光照射した場合,シリコンの持つ高い屈折率のために,大きな球面収差を生じる。球面収差をなくして効率的に改質を生じさせるために,波面を調整するデバイスを光学系に導入する。そのようなデバイスは,具体的にはデフォーマブルミラーまたは空間光変調器である。これにより,シリコン基板内部の任意の深さに対して照射レーザー光が幾何光学的な焦点を結ぶような光学系を構築する。 3.上の新たな光学系を用いて,これまで行ってきた{超短レーザーパルスによる改質}+{エッチング}による内部加工の研究を進める。今年度は主にエッチング液の組成依存性について調査したが,これを発展させ基板貫通孔の作製を試みる。さらに,いわゆるステルスダイシングで行われているような,波長1.064 nm程度で時間幅がやや長いパルスによる,大きな改質領域の作製も試み,その部分のエッチング特性を調べる。 4.以上に加え,超短レーザーパルスを使った接合の実験も開始する。最初は,これまでに接合が報告されている材料で実験を行い,その後シリコン─シリコンの接合を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動により,レーザー照射光学系を移設して立ち上げる必要が生じ,そのために当該光学系に新たに組み込む導入する予定だった補償光学機器の導入が遅れた。
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次年度使用額の使用計画 |
上に記した補償光学機器を購入し,研究を推進する。
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