研究課題/領域番号 |
26289024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
崔 ジュン豪 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30392632)
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研究分担者 |
加藤 孝久 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60152716)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 摩擦 / 湿度 |
研究実績の概要 |
(1)バイポーラPBIIを用いたグラフェンの合成:熱CVD法を用いてグラフェンを大面積で合成することは困難である。また、低摩擦への応用のために三次元形状の機械要素の表面にグラフェンを合成することはさたに困難である。そこで、平成27年度は、新しいグラフェンの合成手法としてバイポーラ型プラズマ利用イオン注入法(バイポーラPBII)を用いてグラフェンの合成を行い、酸化シリコン表面上において、グラフェンの合成に成功した。バポーラPBIIを用いてメタンイオンをサンプル表面(Ni薄膜/SiO2層/Si基板)に注入(エネルギー:20KeV)して、Niの触媒作用によりNi膜の表面およびNiとSiO2の界面にグラフェンの合成ができた。合成後、Ni膜を化学エッチングすることで、SiO2表面に直接グラフェンを得ることができた。 (2)グラフェンの摩擦特性評価および超潤滑性の解明:超潤滑性の解明のため、摩擦環境(雰囲気ガス、気圧、温度、湿度)の制御が可能であり、かつ0.001以下まで摩擦係数の測定が可能な環境制御型真空摩擦試験機のセットアップを開始した。現有のボールオンディスク型の低真空摩擦試験機を改良し、高真空仕様にした上、超低摩擦測定のための摩擦測定機構を設計中である。また、原子間力顕微鏡を用いて、グラフェンのナノスケール摩擦の測定を行い、グラフェンの高摩擦の原因であるパッカリング現象を実験的に観察できた。 (3)曲面形状物上へのグラフェンの合成のための予備実験:バイポーラPBII法によるイオン注入により三次元的にグラフェンを合成するためにはイオンの振る舞いを明らかにする必要がある。本年度はトレンチ形状物周囲でのプラズマ挙動解析およびカーボン膜の作成実験を行い、バイポーラPBII法に置けるイオン注入の挙動を明らかにして、三次元グラフェンの合成のための知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 熱CVD法およびバイポーラPBll法によるグラフェンの合成:熱CVD(Chcmical Vapor Dcposition)法によりグラフェンを行い、合成においての最適条件(基板温度、合成圧力、合成時間)を得た.プロセスガスとしてはCH4および水素を用いた。また、新しい合成方法としてバイポーラPBll法を用いてグラフェンの合成にチャレンジし、ニッケル薄膜の表面およびニッケル薄膜とSiO2の界面にグラフェンが合成できた。 (2)合成したグラフェンの構造評価:走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行うことでグラフェンの合成課程を明らかにし、最適今成条件を得た。また、マイクロラマン分光分析によるグラファイトピーク(Gピーク)と2Dピークの比率(単層グラフェンの場合、I(2D)/I(G)比がおよそ2)、2Dピークの対称性評イ而、Gピークと2Dピークの二次元マッピングを行うことで、合成されるグラフェンの層数(単層と多層)、膜厚分布、欠陥率の評価ができた。
(3)グラフェンの摩擦特性:原子間力顕微鏡を用いて、グラフェンのナノスケール摩擦の測定を行い、グラフェンの高摩擦の原因であるパッカリング現象を実験的に観察できた。また、大気仕様の摩擦試験機を用いて、マクロスケールでのグラフェンの摩擦試験を行った。グラフェンはマクロスケールにおいて高い潤滑性を示し、その効果は摩擦相手材,雰囲気に大きく依存することを明らかにした。即ち、届数が多く欠陥率の低いグラフェンは大気中において低い摩擦係数を長時間維持することがわかった。さらに、不活性ガスで摩擦試験機の試験領域を置換することで雰囲気制御を行いながら摩擦試験を行った結果、グラフェンの摩擦係数、耐久性ともに不活性ガス環境下で優れた特性を示すことが確認できた。しかし、不活性ガスの置換の仕方により摩擦係数のばらつきが生じることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)バイポーラPBIIを用いてのグラフェンの合成:27年度には新しいグラフェンの合成手法としてバイポーラ型プラズマ利用イオン注入法(バイポーラPBII)を用いてグラフェンの合成を行い、酸化シリコン表面上において、グラフェンの合成に成功した。バポーラPBIIを用いてメタンイオンをサンプル表面(Ni薄膜/SiO2層/Si基板)に注入(エネルギー:20KeV)して、Niの触媒作用によりNi膜の表面およびNiとSiO2の界面にグラフェンの合成ができた。合成後、Ni膜を化学エッチングすることで、SiO2表面に直接グラフェンを得ることができた。今年度はさらに、バイポーラPBIIを用いて、銅の触媒反応および水素ラジカル・イオンにより、メタンイオンのC-H結合を切り、銅表面上においてメタンイオンをカーボンイオンに分解し、低エネルギーのカーボンイオンを銅の表面に吸着・重合させる方法を用いて単層グラフェンの合成を行う。 (2)超高真空環境制御型摩擦試験機によるグラフェンの摩擦特性評価および超潤滑性の解明:グラフェンの摩擦係数は、摩擦試験機のガスパージの度合いにより大きく ばらつきが生じることが昨年わかった。超潤滑性の解明のためには、確実な摩擦環境(雰囲気ガス、気圧、温度、湿度)の制御が不可欠であり、今年は現在進行中である環境制御型真空摩擦試験機のセットアップを終了し、摩擦試験を行う。 (3)曲面形状物上へのグラフェンの合成:バイポーラPBII法による三次元カーボンコーティング研究から得られた、三次元形状物周囲のプラズマ挙動の知見を用いて、グラフェンの三次元合成を行い、その構造、表面状態をマイクロラマン分光分析、走査型電子顕微鏡を用いて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
環境制御型高真空摩擦試験機をセットアップするためのターボ分子ポンプ(排気容量70リットル/分)の納入が遅れたため生じた金額である。
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次年度使用額の使用計画 |
注文したターボ分子ポンプは5月に納入される予定であり、納入後、環境制御型高真空摩擦試験機の立ち上げを行い、摩擦試験を行う予定である。
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