本年度は,主として下記を実施した. 1) ナノ厚さ潤滑膜のトライボ特性の測定 前年度に摺動ピンとして設計・製作した曲率半径が大きい平凸レンズを装着するための支持ばね機構を設計・試作し,トライボテスタに搭載した.前年度までに開発を進めてきた干渉顕微鏡を用いて観測した結果,摺動ピンの垂直変位の測定分解能を16.5から0.62 nmに大幅に向上させることに成功し,ナノ厚さ液体膜を介した固体二面の接触状態と摩擦力の高精度な同時計測を実現した.そして,潤滑膜の厚さ,粘度,および摺動速度をパラメータとして,固体二面間の摺動部を観察するとともに,摩擦力と摺動ピンの垂直変位を測定した.その結果,固体二面間における液架橋の形成・成長→破断→回復といった一連の動的挙動,およびナノ厚さ液体膜は固体二面間の摺動部に介在して流体潤滑的な作用を示すことを明らかにした. 2) 分子シミュレーション 前年度までにモデル化の精度向上を進めてきた高効率な粗視化分子動力学法を用いて,UV照射パターニングにより微細機能性凹凸パターンを付与したナノ厚さ潤滑膜を対象に,流動シミュレーションを継続して実施するとともに,せん断シミュレーションを実施した.パターンが流動・せん断方向と直交する場合は,平行な場合に比べて,流動が遅くまたせん断力が小さいこと,さらに実験で用いたパターンの線幅範囲では,流動特性の線幅依存性が小さいことなどを明らかにした.これらのシミュレーション結果は実験結果と一致することを確認した.また,凹凸パターンの付与による潤滑剤分子の構造・運動の変化に関して,動的分子描像およびそれが流動・せん断特性との関係性をシミュレーションにより明らかにした.
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