延長の本年度はこれまでの結果をまとめて学会報告、および学術論文投稿準備を行った。これまでの研究で、酸化グラフェンを水、イオン液体、ポリアルファオレフィン(PAO)、エステル系潤滑油に分散して潤滑特性を測定してきた。またこれまでの研究では全て往復摺動試験で摩擦特性を測定しており、潤滑状態としては全て境界潤滑であった。このような潤滑状態では、水に分散したときのみ摩擦係数が0.05と非常に低下したが、それ以外の液体ではこのような低摩擦にはならなかった。水分散で最も摩擦係数が低下した理由の1つとして、非常に厚いトライボフィルムが形成されたことが挙げられる。このトライボフィルムの形成は基板材料とボール材料に非常に依存し、さらにpHにも依存していた。基板材料として鉄系のものがトライボフィルムを形成しやすいこと、さらにpHが低いほど形成しやすいことが明らかにった。またこのトライボフィルムの酸素濃度は酸化グラフェンの酸素濃度30%に比べてかなり低く、10%であった。このことから、酸化グラフェンが摩擦の圧力とせん断で結合・還元されて形成されていることが分かった。ただ、水以外だとこのような厚いトライボフィルムが形成されなかったが、水でもpHが小さいときにのみトライボフィルムが形成されたことから酸化グラフェンの酸素官能基がプロトンが離れてイオン化している状態と思われる。PAOでは分散剤を用い、それが酸化グラフェンに結合しており、酸化グラフェンがイオン化されず、イオン液体、エステル系潤滑剤でもこれらの液体自体が酸化グラフェンに結合され、イオン化を妨げていると思われる。すなわち酸化グラフェンのイオン化がトライボフィルムに大きな影響を及ぼしていると考察できるが、この仮定の検証を行う必要がある。
|