研究課題/領域番号 |
26289029
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
澤江 義則 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10284530)
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研究分担者 |
山口 哲生 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20466783)
森田 健敬 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70175636)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低摩擦 / 細胞・組織 / 関節軟骨 / トライボロジー / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本年度は,当初の計画に従い「顕微鏡視野下摩擦・変形特性評価システム」の開発を行った.導入した横河電機(株)製共焦点画像取得システムを既存の倒立方顕微鏡に設置し,さらに顕微鏡観察ステージ上に設置する小型摩擦・変形評価システムの構築を目指した.導入した共焦点画像取得システムは共焦点光学系にニポウディスク方式を採用し,高フレームレートのCMOSカメラと組み合わせることで共焦点画像を高速に取り込むことが可能である.これにより,培養組織およびその内部に有る培養軟骨細胞の変形について,その動的挙動を比較的高い時間解像度で観察することが可能である. 小型摩擦・変形評価システムでは,ガラスボトム培養皿に満たした培地に浸漬した培養組織に対し,摩擦測定機構と連結された圧子を押しつけ,さらに圧子を接線方向に往復動させる.その際,培養組織表面で生じる摩擦力を計測すると共に,組織内に生じる歪みの分布,および内部の軟骨細胞に生じる歪みを共焦点観察により取得し,培養組織内に構築された荷重支持や摩擦低減といった力学的機能の発現程度を評価することを目的とする.このうち,現状では未だ力学的強度の低い培養組織表面に生じる微小な摩擦力を計測する摩擦測定機構の開発が最も難易度が高いため,本年度はまず圧子と培養組織を接触させ,往復動させる運動機構の開発を先行して完了させた.そのシステムを用い,培地に浸漬した培養組織に圧縮とせん断の両変形を与える実験を実施し,取得した共焦点画像から,組織内に生じるマクロスケールの歪み分布と,個々の細胞に生じるマイクロスケールの歪みを定量する方法を確立した. また摺動負荷培養実験も継続して実施しており,本年度は全培養期間における摺動負荷の負荷時間および負荷時期の影響を検討し,組織形成の促進に最適な培養条件を探索した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の計画の内,顕微鏡視野下摩擦・変形特性評価システムの開発については,概ね予定通りに遂行することが出来た.培養組織と圧子を接触させ両者間で滑り摩擦を生じさせる,2つのサーボモータによる二軸の精密運動機構を,倒立方蛍光顕微鏡の観察ステージ上に構築した.また実際に培養組織の二軸変形試験を顕微鏡視野下で実施し,取得した共焦点画像から,組織内のマクロスケールの歪みと組織内部の細胞に生じるマイクロスケールの歪みを定量する手法を確立した.残る摩擦測定機構についても,基本設計を終え主要なセンサーや電子部品等の選定を終えており,現在部品の調達と組み立てを進めている.そのため,摩擦測定機構の開発についても,平成28年5月中には完了の予定である. 摺動負荷培養実験についても,ほぼ計画通りに実施した.今年度は培養後の組織について,コラーゲン繊維およびプロテオグリカン含有量の定量を行い,摺動負荷培養を行った培養組織では,ローラと接触する接触部よりも,ローラとは接触しない非接触部においてコラーゲンおよびプロテオグリカンの含有量が高くなっていることが明らかとなった.また組織構造の形態的特徴についても,培養組織内のコラーゲン繊維およびプロテオグリカンを形成する成分であるケラタン硫酸を免疫抗体染色法により蛍光染色し,共焦点蛍光顕微鏡により観察することで評価した. 前年度から継続する検討課題である,高弾性率培養組織形成のための高細胞密度培養法については,本年度は細胞腫として株化した軟骨細胞前駆細胞の使用を検討した.しかし,現在用いている培養環境では,十分な細胞生存率を得ることと適切な分化誘導を行うことが困難であった.そのため実験に使用する細胞腫について再検討することとした.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い,摺動負荷培養実験を継続的に実施する.本年度も,培養後の組織に蓄積されたコラーゲン線維量およびプロテオグリカン量を定量すると共に,形成された培養組織の構造的特徴を評価しながら,それらの結果を評価パラメータとすることで,培養時の負荷時間,負荷時期等の培養条件を最適化していく.また実験に用いる細胞腫については,脂肪由来細胞,IPS細胞等の幹細胞系細胞の使用を,その入手性の容易さと併せて検討する. 顕微鏡視野下摩擦・変形特性評価システムについては,5月の完成を目指して開発を継続する.また完成したシステムを用い,摺動負荷培養により得られた培養組織表面の摩擦特性および変形特性を評価する.実験ではガラス円筒を圧子として用い,圧子を培養組織表面上で摺動させることにより,生じる摩擦力を計測する.また培養組織内部の細胞を蛍光染色し,低倍率の対物レンズを用いて共焦点画像を取得することで,染色した細胞をマーカーとした組織内歪み分布の定量を行う.また高倍率の対物レンズによる共焦点画像も取得し,こちらからは個々の細胞に生じる歪みを定量し,組織の歪みが内部の細胞に伝達されるさいの組織構造の影響について明らかにする. さらに,弾性接触理論による接触解析を行い,実験により得られた結果との比較を通して培養組織の力学特性について定量的評価を進める.また細胞が経験する歪みと組織構造との関係を検討することにより,培養組織内への力学機能形成のメカニズムを検討する.
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