研究課題/領域番号 |
26289038
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏明 中央大学, 理工学部, 准教授 (20372427)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | リポソーム / 反応場 / 溶液操作 |
研究実績の概要 |
マイクロサイズの液滴やマイクロチャンバーといった微細な化学・生化学反応容器の技術は,1細胞レベルの遺伝子発現解析やそのばらつき(細胞の個性)の計測といった生命科学の新しいフロンティア開拓の推進力となった.マイクロ流体技術の黎明期では,細胞や反応液を微細な空間に閉じ込めてそのダイナミクスを観察するという静的なものであったが,近年では巧妙なマイクロデバイスを駆使して液滴を動的に操作し,溶液の添加や分注(分割)といった,生化学実験者が研究室のベンチで行う標準操作がマイクロスケールで実現可能となった. 本研究では,申請者がこれまでに開発した,リポソームを動的反応容器として用いる技術を改良・発展させ,フェムトリットル体積の溶液添加→混合→分割といった連続操作,それを用いた逐次反応が可能な超微細生化学実験基盤技術を確立することを目指した. 申請時には,以下の2つの目標を掲げた. ①インクジェット装置を利用し,均一なマイクロ反応場としてのリポソームを簡便に作製する ②リポソームの融合と分裂の効率を上げ,かつ逐次的な生化学反応を継続可能とする ①については,液滴が油水界面を通過するときの不安定性が露呈し,当初の計画通りには進んでいない.しかし,現在詳細な条件検討を積み重ねており,解決に向かっている.②については,アガロースゲルで安定化したリポソームの作製に成功し,かつ分裂させるための新たな条件を確立した.また,緻密な条件検討の結果,リポソームの融合と分裂時に酵素が失活せず,反応が安定して継続する条件を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,研究項目①については当初の予定通りには進まなかった.リポソームの内封液となる一定体積の水溶液をインクジェットノズルから吐出し,オイルと水の界面に形成した脂質の単分子膜を通過させることで微小反応場としての巨大リポソームが得られると予想した.その際に,油水界面の脂質単分子膜が比較的不安定であり,リポソームが形成される際に破裂してしまう現象が見られた.現在,リン脂質のみでなく,油水界面をより安定化させる界面活性剤の添加による影響を調べている.研究項目②については,当初の計画以上の進展があった.計画時は,融合後のリポソームの分裂操作として排除体積効果を利用する方法を計画したが,平成26年度の研究において,モノアシル脂質(LysoPC)を溶液中に添加することで,ほぼ100%の効率で分裂変形が起き,かつ娘リポソームの分離を実現する条件を見出した.さらに,低融点アガロースゲルを内封したリポソームの作製に成功し,弱点であったリポソームの安定性を増すことに成功した.また,リポソームの電気融合時に内封した生化学反応(酵素)が失活しやすいという問題の原因を特定し,その解決策を見出した. 以上,やや遅れている項目と,計画以上に進展した項目が共存するため,おおむね順調に進展していると評価した.しかし,項目①に関しても解決の糸口は見出しつつあり,平成27年度には安定したリポソーム溶液操作系の構築が実現すると予想している.
|
今後の研究の推進方策 |
27年度は,インクジェットを用いた人工細胞膜(リポソーム)形成法の条件検討を詳細に行う.26年度は,リポソームの膜成分としてリン脂質のみをテストしたため,リポソーム形成時に単分子膜が壊れるなど,不安定であった.今後は,脂溶性の非イオン性界面活性剤であるSpan80等をリン脂質に添加することで,膜形成の安定化を図る. 平行して,フェムトリットルの溶液を添加(融合)および分割(分裂)を高効率で行うための詳細な条件検討を継続する.26年度には,上記のように,リポソーム膜の安定化と逐次的な生化学反応を行う条件について大きな進展があった.27年度はより緻密な条件の最適化により条件の微調整を行う.インクジェットを用いた均一リポソームの形成法が完成すれば,項目①と②を組合せて,リポソームを用いた極微量溶液操作系の大枠が完成する.その時点で,逐次的な生化学反応のデモンストレーションとしての,転写翻訳反応から生じる分子の収支関係の検出と解析に着手する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請時よりも減額して採択されたため,旅費および人件費の使用配分を次年度に持ち越した.持ち越し額は約33万円であり,大幅な変更ではない.
|
次年度使用額の使用計画 |
旅費(学会発表)および人件費として主に使用する.
|