研究課題/領域番号 |
26289039
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
染矢 聡 独立行政法人産業技術総合研究所, エネルギー技術研究部門, 上級主任研究員 (00357336)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 流体工学 / 熱工学 |
研究実績の概要 |
本研究では機能性中空マイクロカプセルを利用し,濃度変化を伴う作動流体に適用可能な,微小スケール流れの温度と速度を同時計測する手法を開発する.低入熱高輝度で出力の安定した高出力パルス光源を開発する.強度法,二色法や寿命法による温度計測と断面スキャン法及びデフォーカス法等による3次元速度計測を組合せて温度速度計測を実現し,手法の適用可能範囲を明らかにする.開発手法を用いて熱・物質移動を伴う液膜内流れの温度速度を同時計測することにより,温度速度相関など現象の詳細を解明し,車載用吸収式冷凍機の小型化,エネルギー高効率利用技術に寄与する. 平成26年度までにピエゾアクチュエータで対物レンズ位置を視線方向に移動させながら,二次元的な温度速度同時計測を行った.また,ピンホールを用いたデフォーカス法や寿命法,二色法についても簡易試験を実施した.その結果,寿命法,二色法,デフォーカス法はいずれも検出可能な光量が非常に小さくなり,画像中のノイズが大きく,信号強度の変動幅が大きな画像しか取得できなかった.一方,単波長の強度法を用いてS/N比の高い測定をした場合の測定分解能が高いことがわかった. 局所的な温度分布を持つ液膜流れを最終的なターゲットとするため,計測手法の研究開発に加えて,T字型の合流部を持つサブミリスケールチャネル内の温度速度計測を通じて,このスケールにおいて粘性や密度の差,流速の影響が流れに与える影響を詳細に調査する. 26年度はサブミリチャネルを試作し,ペルチェ素子を用いて温度勾配をもつ流れ場を作成して,その基礎的な特徴を調べるための予備実験を開始した.その結果,一定の流入流量条件において,高温流体が鉛直上側を,低温流体が下方を流れる流れが形成されることなどがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は(1)高出力パルスLED/LD光源の開発と発光特性評価,(2)断面スライス法による温度速度計測法開発を計画していた.(1)では,1WクラスのLEDに極短時間のみ大電流を通電するシステムを作成した.通常は300mA程の電流で動作させるLEDに,1μ秒の極短い時間のみ10Aほどの大電流を流し,低発熱で高出力を得る強力なパルス光源を開発した.発光強度の時間的な安定性や応答速度など基本性能について,フォトダイオード等を用いて評価した.(1)は計画通りに進展した. (2)では,対物レンズ位置を視線方向に移動させながら,二次元的な温度速度計測を試みた.ここまでの計画については順調に進展し,T字型合流部を持つ流れ場において温度差を持つ液体流れの温度,速度を評価した. 一方,平成27年度以降を見据えた予備試験を複数実施した.対物レンズにピンホールを設置しない状態でのピンボケ効果を利用した三次元三成分の速度計測法を,強度法,二色強度法,寿命法といった異なる温度計測法と組み合わせて,三次元四成分の温度速度同時計測法を開発することのフィジビリティスタディを実施した.ピンホールの無い状態であっても,二色強度法では光源強度やトレーサーからの蛍光強度の制約によって,画像中のノイズが大きく,信号強度の変動幅が大きな画像しか取得できなかった.寿命法の場合は励起光源にパルスレーザーを用いれば一定の信号強度を得ることができたが,LEDでは信号を取得できなかった.また,単波長の強度法を用いてS/N比の高い測定をした場合の測定分解能が高いことがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降,断面スライス法による温度速度同時計測法をベースとして液膜流れの温度速度計測を行う.寿命法,二色法など他の手法の検討,改善についても,マイクロカプセル性能の調整や励起光源の出力改善などを通じ,継続的に実施する. 液膜内流れの温度差表面張力対流の解明に向けて,前年度予備試験の結果を考慮しつつ,平成27年度はT字型の合流部を持つマイクロチャネルを用いて温度差を持つ流れを作成し,その温度速度同時計測を行う.複数のペルチェ素子による加熱冷却と金属製チャネルを利用することによって,合流前の液体温度を制御し,これらに2~4℃の温度差を与える.これら2つの流れがT字合流する流れによって温度分布をもつ微小流れ場を形成する. マイクロチャネルの流路サイズは,液膜流れの厚さと同程度の0.5~1.0ミリとし,粘性のみでなく浮力の影響が生じるサイズとする.また,粘性の効果と浮力の効果のバランスを変化させてこれらの影響を検討する為,複数種類の流路を試作し実験を行う.このスケールにおいて粘性や密度の差,流速の影響が流れに与える影響を詳細に調査する.液膜流れへの適用可能性を評価するため,自由液面のある液膜流れに関する試験装置を設計,試作する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は感温性中空マイクロカプセルの開発および最適化と,計測法開発を並行して研究代表者のみで実施していた.平成26年度にいくつかのフィジビリティスタディを終え,計測法の確立に向けたカプセル性能及び計測法の最適化を進める.同時にサブミリスケール流れ場の解析を行う.これらの作業を円滑に進めるため,研究補助員を雇用する.平成26年度のカプセル性能試験では,当初想定していた以上の試験パラメータに着目してフィジビリティスタディを実施したため,単調な作業が少なく,雇用による作業効率向上が見込めなかった.そのため昨年度の雇用を見送った.一方,これまでに十分な知見を得たため,27年度にフルタイムで雇用し,今後,カプセル性能と計測法の最適化を進めることが必要である.これにより次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
4月1日より上記のとおり,研究補助員をフルタイムで雇用した.これにより単一の蛍光物質を含むカプセル,複数の蛍光物質を含むカプセルの作成と最適化を進めている.最適化の過程では,蛍光スペクトルとその温度依存性の評価,光学的劣化特性の評価,粒子径分布,これらに適した分散媒や,カプセルの母材となるポリマーの影響評価などをすでに進めている.今後も継続的にこれを実施する計画である.
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