研究課題/領域番号 |
26289041
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
中村 祐二 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50303657)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱工学 |
研究実績の概要 |
本研究では,極細バーナ内部での反応領域を間接的に求めるために,白金酸化タングステン(Pt-WO3)薄膜が持つ特性の一つである「スピルオーバ効果」を利用することでマイクロバーナ内部の水素存在領域をセンシングすることを目指している.そのための薄膜製造法に関する知見を収集し,実際にガラス基板に対してゾルゲル法によってPt-WO3薄膜を作成し,水素応答について調べた.薄膜製造については同専攻の伊崎研究室および戸高研究室に協力いただいた(製造法のノウハウ伝授,薄膜製造装置の貸与など).まずは水素応答に与える薄膜製造過程の効果を調べるため,薄膜層数および焼きなまし温度について検討した.その結果,応答速度が積層数の増加に伴い早くなることがわかった.ただし焼きなまし期間において薄膜がひび割れるなどの問題も生じた.このような割れの原因として考えられるものに組織片のサイズがある.文献によればチタンなどを少量ドープすることで組織片を小さくすることができるとあるため,そのような工夫を凝らすことで計測に耐えうる薄膜が得られるものと考えている. 元々の計画では薄膜温度に対する感度依存性などを調べる予定であったが,現時点では温調装置を配備したところまでは済んでいるものの,実験を進めるには至らなかった(上記の通り,薄膜が破損してしまうことが原因である).また,水素を安全に扱うため実験用のチャンバ設計を数回見直すなど,試験県境の整備に多くの時間を費やすこととなった.次年度はまず丈夫な薄膜製造を行うと共に,スピルオーバ効果の温度依存性について実験的に明らかにし,マイクロバーナ内部の水素検知,すなわち反応領域センサとして利用可能であることを示す予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初は,本年度の目標として,薄膜製造,試験チャンバの設計・設置,スピルオーバ効果の温度依存性の把握という3点を掲げていたが,そのうちの2つは実施を到達目標をクリヤした.すなわち,水素漏洩のない試験チャンバを製作してスピルオーバ試験ができる環境の整備を行った.同時に実際にガラス基板に対してゾルゲル法によってPt-WO3薄膜を作成し,水素応答について調べた.感度特性として,水素への感度が薄膜の積層数の増加に伴い変化するなど貴重なデータは取得できたものの,薄膜がひび割れてしまうなどの技術的問題が解決できていないことも詳らかになった.薄膜の割れについては当初の想定外であり,実際に薄膜を製造してから明らかとなったことである.元々薄膜製造に関する知見がないところから始めているため,このような不測の事態が起きることは不思議ではない.既にどのような対策を施すのかの目処はついているため,3つ目のやり残した目標分は次年度に対応できる準備は整えている.なお,水素用の試験チャンバの開発については,水素ガス配管の工事に関する諸手続きが予想を超えた時間がかかり,そこからのチャンバ開発となったために年度後半までずれ込んだ.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度ではスピルオーバ効果の温度依存性を把握して,濃度と温度の関数化を試みる.水素を燃料とするマイクロバーナ(スロットバーナを想定)に薄膜を設置し,温度を熱電対あるいは赤外線カメラなどでモニタすることで,水素の存在領域を可視化することを試みる.このときに必要となる薄膜センサの特性とは,変動速度に対する応答速度ではなく,変動濃度に対する感度である.対象とするマイクロバーナ内部は定常系であるため,速度変動に対しては大きな問題とは考えない.また,バーナ先端付近は高温になることを想定し,高温にしてもひび割れなどがないような微細組織を持つ薄膜として仕上げることが適切であるため,そのような薄膜製造を行う.得られた結果の妥当性については,スロットバーナに対する(水素の詳細反応を含めた)数値計算を実施し,それを活用することを予定している.実験で得られるのは(熱電対などによる壁面温度と)水素濃度の分布のみであるため,反応領域については間接的にしか知ることができない.一方,数値計算では反応領域やラジカル分布などの詳細を知ることができるため,これを利用することで,バーナ内部の反応構造に関する知見を得ることができる.定量一致をさせることは表面反応モデルを加えても著しく困難であることが想定されるため,条件(バーナの熱伝導率,終始酸素濃度など)を変化させることでバーナ内部の反応領域の幅を変え,実験的に得られる水素存在領域の挙動が数値予測と合致するか否かで,実験結果の検証としたい.ただし,スロットバーナ火炎における詳細反応数値シミュレーションは容易なものではないため,本年度で完了するものとは位置づけず,次年度を超えて実施を継続することで検証へ対応することを考えている.
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