研究課題/領域番号 |
26289045
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野崎 智洋 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90283283)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロ熱工学 / 再生可能エネルギー / 薄膜太陽電池 / プラズマ材料科学 |
研究実績の概要 |
リン酸トリメチルをドーパントとしてプラズマCVDに添加し、原料である四塩化ケイ素と同時に水素還元することでリンを適量ドーピングすることに成功した。さらに、反応時間によって結晶サイズを制御し、当初の目標であった平均粒径6nmのシリコン量子ドットに加え、平均粒径4nmのシリコン量子ドットを合成することに成功した。いずれの場合においても、ドーパント濃度が約1%であることを確認した。合成直後のシリコン量子ドットはほぼ塩素で終端されているが、これをフッ酸蒸気でエッチングするドライエッチング法を開発した。この新しい方法により、シリコン量子ドット表面の塩素および酸素をすべて取り除き、水素で置換することに成功した。塩素で終端されたシリコン量子ドットは半導体ポリマー(P3HT)と反応しており、赤外吸収分光分析によれば、正孔の導電パスとなるチオフェン構造を破壊していることが示唆された。一方、水素終端によりポリマー構造は安定に保たれ、さらに電子伝導性も向上することが明らかになった。同様に、塩素終端、水素終端された量子ドットを用いてTFTを作製し、量子ドット薄膜のキャリア移動度を評価した。塩素終端の場合、電子の移動度が一桁以上低下することが明らかとなった。以上より、ドーピングされたシリコン量子ドットは水素終端することでn型半導体としての特性が顕在化することが実験により検証された。さらに、ハイブリッド太陽電池と並行して、一般的な有機薄膜太陽電池に増感剤としてシリコン量子ドットを数%添加することで太陽電池の変換効率が向上する新しい機構を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画より大きな進展があり、有機リン(リン酸トリメチル)を用いたシリコン量子ドットのドーピング実験が大きく進展した。原料に含まれる有機物による汚染は全くなく、結晶性の高いシリコン量子ドットを合成することに成功した。さらに、ドープされたリン原子はシリコン原子を置換し、ドーパントとして活性化されていることも確認できた。そこで、シリコン量子ドットの結晶サイズの制御を前倒しで実施した。ナノ結晶の成長はLa Merの法則に則って説明できる。すなわち、反応時間を制御することで核の成長速度を制御し、結晶サイズを制御する。その結果、標準となる6nm(平均粒径)に加え4nmのシリコン量子ドットを合成することに成功した。3nm、8nmの量子ドットも合成可能であることを確認したが、合成条件が最適値から大きく外れるため、収率が顕著に減少する問題が生じた。この問題は、長時間合成によって対応できることを確認した。ドーピングと結晶サイズの制御に加え、表面修飾についても検討した。四塩化ケイ素を用いているため、合成直後はほぼ100%の確率で表面は塩素で終端されている。フッ酸蒸気を用いてドライエッチングし、表面の塩素を全て水素で置換する表面処理法を確立した。水素終端によって、太陽電池の開発に必要なn型半導体としての特徴が顕在化することを実験で検証した。
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今後の研究の推進方策 |
シリコン量子ドットのドーピングについては、平成26年度の研究でほぼ達成できた。よって、申請時に計画していた装置の改良は平成27年度は実施しない。平成27年度は、ドープされたシリコン量子ドットの物性評価を中心に研究を実施する。シリコン量子ドットは塩素ではなく水素終端することでn型半導体としての特性が顕在化することを明らかにしている。一方、量子ドットに含まれる結晶欠陥については不明な点が多い。欠陥は電子をトラップして移動度を下げたり、光吸収によって生成された励起子の再結合サイトとなり、光-電気変換効率およびキャリア輸送能を著しく低下させる。結晶欠陥は量子ドット表面のダングリング・ボンドに起因するものと、ナノ結晶内部に残存するものの二つに大別される。平成27年度は、結晶欠陥をナノ粒子の表面と内部に分けてその起源を明らかにし、これを低温熱処理によって取り除く新規なアニーリング手法を開発し、電子移動度など諸物性に及ぼす影響をパラメトリックに調査する。その結果に基づき、ハイブリッド太陽電池を開発し、結晶欠陥が光電流の増加に及ぼす影響、ドーピング及び結晶サイズが開放電圧及び曲線因子増大に及ぼす影響を明らかにする。さらに、量子ドットを光増感剤として用いる有機薄膜太陽電池を用い、シリコン量子ドットによる光吸収および光電流生成機構についても考察し、ハイブリッド太陽電池の変換効率向上のメカニズムを明らかにする。
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備考 |
アウトリーチ活動(3件):東京工業大学サマーレクチャー(2014年9月)、香川高専にて特別講義(2014年12月)、田園調布学園にて出張特別講義(2014年10月)。
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