研究課題/領域番号 |
26289045
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野崎 智洋 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90283283)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロ熱工学 / 再生可能エネルギー / 太陽電池 / 量子ドット / プラズマCVD |
研究実績の概要 |
平成27年度は,シリコン量子ドットのドーピング及び物性評価を中心に研究を実施した。シリコン量子ドットは水素終端することでn型半導体としての特性が顕在化し,電子移動度が増大するためハイブリッド太陽電池の光-電気変換効率が大幅に向上することを明らかにした。また,リンを多量にドープすることで近赤外から赤外域にかけてプラズマモン共鳴による光吸収が著しく増大することを実験により実証した。シリコン量子ドットは紫外域での光吸収が強いが,可視域より長波長ではほとんど光を吸収しない。よって,近赤外~赤外域で光吸収が数桁強くなる現象は,太陽電池の変換効率を高めることに直接寄与するほか,赤外センサーや熱電発電応用にも展開できることを示唆しており,今後のさらなる発展が期待される。 一方,量子ドットに含まれる結晶欠陥については未だ不明な点が多い。結晶欠陥は,シリコン原子の欠損など結晶構造に直接関連したもの以外に,表面を終端する水素の脱離や酸化により形成される不純物準位に大別される。化学エッチングや低温熱処理によってある程度は欠陥を低減できることを実証したが,太陽電池の高効率化には,これらの欠陥をほぼ完全に取り除く必要があり,新たな材料処理プロセスの開発が急務である。シリコン量子ドットを光増感剤とする有機太陽電池においては,紫外域の外部量子効率が2倍以上増大することを確認したが,可視域も含めた模擬太陽光のもとでは大幅な変換効率の向上にはつながっておらず,引き続き検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画より大きな進展があり,結晶サイズが制御されたシリコン量ドットにリンを目的の濃度ドーピングすることに成功した。さらに,ドーパントであるリンは活性化されており,近赤外~赤外域でプラズマモン共鳴による強い光吸収特性を示すことを実験で実証することに成功し,太陽電池の高効率化に向けた材料合成研究が大きく進展した。プラズモン共鳴は貴金属では一般的に知られた現象であるが,半導体であるシリコンにおいてもプラズモン共鳴が可能であり,さらにこれを実験的に実証した例はきわめて少なく,その研究成果は材料科学・フォトニクスの分野で権威ある学術雑誌(ACS Photonicsなど)に数編掲載された。近赤外~赤外域における光吸収特性の増大は太陽電池の光-電子変換効率の向上に直接的に寄与するほか,赤外センサーや熱電発電材料などにも応用できる可能性を示唆しており,大きな波及効果につながる成果として高く評価できる。 さらに,シリコン量子ドットに含まれる結晶欠陥を電子スピン共鳴で分析し,その起源が3つに属することを明らかにした((1)ナノ結晶内部の原子配列のディスオーダー,(2) 結晶表面のダングリングボンド,(3)ナノ結晶の酸化などによる不純物準位)。欠陥の種類によってこれらを取り除くためのアプローチは異なるが,その指針を明示することができたため,平成28年度の研究が大きく進展することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ハイブリッド太陽電池の高効率化には,ナノ結晶シリコンのサイズ制御,表面水素化,ドーピングに加え,ナノ結晶の表面および内部に存在する結晶欠陥を極限まで低減することが重要であることを明らかにした。これにより,シリコン量子ドットが形成するナノ界面におけるエキシトンの解離,さらにナノ界面ネットワーク(バルクヘテロ構造)を輸送される光生成キャリアの移動度を向上し太陽電池の高効率化を実現できる。 表面の水素化には,これまでに開発した高濃度HF蒸気によるドライエッチングで対応する。HFドライエッチングでは,ナノ結晶表面のダングリングボンドの大半を除去できるが,結晶内部に存在する結晶欠陥を取り除くことができないため,300℃以下の低温で熱処理する手法を新規に開発する。低温熱処理による欠陥除去はバルクシリコンでは報告例があるが,ナノ結晶への適用は報告例がきわめて少なく,プロセスの新規開拓が必要になる。さらに,我々が開発したインフライトプラズマCVD法では,高い非平衡性により結晶化度をデザインした,アモルファスシリコンナノ粒子を合成することができる。アモルファスナノ粒子は欠陥を含んでいるが光吸収特性がナノ結晶よりも優れている。そこで,HFドライエッチングおよび低温熱処理を組み合わせ,結晶欠陥を取り除いたアモルファスナノ粒子を合成しハイブリッド太陽電池に供試する。結晶欠陥を除去できれば,アモルファス材料が有する高い光吸収特性を生かし,ハイブリッド太陽電池の高効率化を実現できる可能性がある。以上により,フラーレン誘導体を代替する低コストなn-型半導体として,水素化シリコン量子ドットの優位性を明らかにし,有機薄膜太陽電池を上回るハイブリッド太陽電池を塗布プロセスで実現する。 シリコン量子ドットの合成,ドーピング,物性評価に関して研究協力者(中国・浙江大学・Xiaodong Pi教授)と国際共同研究を継続的に実施する。
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備考 |
亀島晟吾,田村奎志朗,石橋裕太郎,野崎智洋:応用物理学会プラズマエレクトロニクス賞 受賞,2016年3月。 田園調布学園特別講義(2015年10月7日)。
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