研究課題/領域番号 |
26289054
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 健太郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20242315)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超音波 / 超音波浮揚 / 音響放射力 / 非接触 / 液滴 / 薬液混合 / 非接触加工 / 滴下 |
研究実績の概要 |
次世代の創薬や新材料開発では、薬剤や材料液体の搬送、混合、分析・評価、分注などの一連の操作を完全に非接触で行うことが求められる。本研究では、空中の超音波音場の音圧の節に微小物体がトラップされる現象を利用して液滴を浮揚させ、非接触搬送、異なった2液の混合、混合した液体の分析、分注、あるいは加工や測定などのさまざまな操作を完全非接触で行うことをめざしている。 昨年度までに2液滴の非接触混合、液滴の非接触分注などのための振動系を開発し、これらの動作を実現してきた。今年度は、MHz帯集束超音波によって液滴1つだけを微小容器から打ち出す方法についてこれまで行ってきた検討結果を整理し論文投稿し、掲載された。凹面PZT振動子によるバースト超音波を水結合した容器底面から内容液体の水面に向かって照射し、水面から単一の液滴を打ち上げることを検討した。水やエタノールなどについて、液体の物性と打ち上げ条件、打ち上る液滴の容積などの関係をまとめた。さらに、打ち出した液滴を定在波音場の音圧の節で捉える実験も行った。音圧を適切に調整することで捕捉に成功した。 また、超音波定在波の音圧の節に浮揚させた小球に非接触で液体を塗布することについて検討した結果をまとめ、国際会議にて口頭発表した。液体を超音波霧化により、浮揚した小球に噴霧して塗布が可能であることを示した。しかし、特異な塗布ムラが発生する原因は詳細には特定できなかった。この塗布実験のために定在波音場の音圧をフィードバックする振動系駆動回路を考案し、操作中の浮揚の安定性を向上することができた。しかし、浮揚物体の挿入や揺動による定在波音場の共振周波数変動を広く追尾するには、振動系のQ値を抑える必要があり、そのような振動系の開発が課題として残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MHz集束超音波をウェルプレートの裏側からバースト照射して、単一の液滴を打ち出す条件の検討を行ってきたが、それらの実験結果をまとめ、考察を加えた結果を査読付き論文として掲載することができた。また、金属と反応する薬剤などに対応するために、プラスチック材料による強力超音波振動系を初めて実現した。強力超音波振動体は従来は全てジュラルミンなどの金属で構成されており、プラスチック材料で超音波周波数の高振動振幅の振動を励振した例は過去にない。 一方、空中に励振した音圧を反射板に設置した圧電センサで検出し、それを増幅した信号で振動源を駆動するフィードバック駆動系についての実験結果の報告は国際会議の口頭発表に採択された。しかし、Q値の高い振動系のために反射板との振動子との距離の範囲や被浮揚物体が大きいときの周波数変動には十分対応できないという問題が残った。また、その動作状況を十分に調査するには至らなかった。そこで、最終年度の研究を延長して、このフィードバック駆動系に関する技術をより充実させたいと考えた。この技術は、超音波浮揚以外にも応用の可能性があり、より一般的にまとめる必要を感じている。
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今後の研究の推進方策 |
空中の定在波音場を用いて液滴を浮揚させる技術において、励振した音圧を反射板に設置した圧電センサで検出し、それを増幅した信号で振動源を駆動するフィードバック駆動系について、動作状況をより系統的に調査する。反射板との振動子との距離の範囲や被浮揚物体が大きいときの周波数変動にも十分対応するようにするため、振動系の特性の検討を行う。この手法に適した振動系について新たな構成や材料の選択を考える。また、その結果をまとめ、適切な方法で発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度には、これまでに進めてきた液滴の混合や滴下、射出の研究に加えて、浮揚物体への液体塗布の実験を行った。液体塗布は申請時には想定していなかったが、錠剤などの生産工程では有益な技術となると考え、追加で検討を始めた。その過程で、様々な操作中に超音波浮揚の安定度を保つためのフィードバック系を考案した。これも申請時には想定していなかったが、実験を進めるうちに、必要な技術であることが明らかになった。反射面に設置した薄型圧電素子で定在波音圧を検出し、それを振動子駆動回路に正帰還する方法を試験したが、簡易な構成ではあるが良好に動作することがわかった。しかし、より広い範囲で安定に動作させるには振動系のQ値を下げる必要があることが明らかになった。この手法の応用は広いと思われ、より完成度を高めるべきと考えた。平成29年度に実験を主に行ったのは電子回路の試作などで費用はあまりかからなかった。一方、前述のように対応周波数範囲を広げるためには、振動系そのものの大幅な設計変更が必要になる。このために次年度使用額を投入し、本研究で考案したフィードバック振動系の完成度を高めたい。成果については何らかの形で公表したいとと考えている。
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