現在のiPS細胞作製技術では、大量に採取した体細胞に対して複数の初期化遺伝子を導入し、そこから生成してくるコロニーを増殖培養することによりiPS細胞を得ている。したがって、iPS細胞コロニーは単一クローンではなく、性質の異なるヘテロな細胞が混在している。このことは、創薬においては研究の再現性に、再生医療においては安全性に、深刻な影響を与える。我々独自で開発したナノファイバー足場材料の上では長期iPS細胞を培養することに成功した。この成果を応用し、初期化操作により得られたiPS細胞コロニーから単一細胞を分離して、分化させる手段を開発することを目的としている。これにより、由来が明確な細胞による基礎実験、創薬研究を可能にする都共に、クローンを大量培養することにより、安全な再生医療への道を開拓する。すなわち、「血統書付き」のヒトiPS細胞及び分化細胞の提供を実現する。過去の四年間において、シングル細胞の単離と培養するデバイスを改良してながら、シングル細胞からコロニーまで培養成功することができた。シングル細胞から樹立されたiPS細胞株の間、明らかに多能性能が異なることを確認できた。そのメカニズムを解明するため、全遺伝子情報を通して網羅的な伝達回路を検討した結果、iPS細胞の多能性能は細胞-培養基板との接着性と強く関連していることが明らかとなった。さらに、シングル細胞から樹立されたiPS細胞株の間、多能性能に限らず、分化能も異なる傾向がみられた。単離されたいくつシングル由来した細胞株のなか、それぞれ神経、心筋、肝臓細胞へ分化誘導傾向性があることを確認した。将来に、本研究成果を応用して、単一iPS細胞株を解析し、その細胞の個性を生かして、目的細胞へ分化誘導させることを目的として、「適職診断」を実現することは可能になる。
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