研究課題/領域番号 |
26289069
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
登尾 啓史 大阪電気通信大学, 総合情報学部, 教授 (10198616)
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研究分担者 |
小枝 正直 大阪電気通信大学, 総合情報学部, 准教授 (10411232)
大西 克彦 大阪電気通信大学, 総合情報学部, 准教授 (20359855)
權 雅憲 関西医科大学, 医学部, 教授 (70225605)
海堀 昌樹 関西医科大学, 医学部, 准教授 (30333199)
陳 延偉 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (60236841)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 手術ナビゲーション / GPGPU / 並列処理 / デプスカメラ / Zバッファ |
研究実績の概要 |
平成26年度は、肝臓手術ナビゲーションシステムの要素技術を個別に試作し、その実現難易度を評価した。ここで、我々が想定している要素技術とは以下の5項目である。 (1)CT撮影より得られた仮想肝臓と実肝臓の位置や姿勢、および形状を医師が合致させる機能、(2)実肝臓の挙動を深度カメラで撮影し、その深度画像と仮想肝臓の深度画像(Zバッファ)が合致するように、仮想肝臓を平行移動や回転移動させたり、変形させたりする機能、(3)肝臓表面の形状変化に伴い、肝臓内部にある3脈管や癌組織を変形させる機能、(4)変形後のZバッファのZ値より、肝臓・3脈管・癌組織の多面体頂点のZ座標を更新し、それらの多面体を個々に変形させる機能、(5)メス先から3脈管や癌組織までの距離を閾値処理し、それらに過度に接近した場合、視覚や音声で医師の注意を喚起する機能。および、事前のメス動作ベクトル、メス先端から3脈管上、または癌組織上の最近点までのベクトル、およびメス先端からそれらの最近点までのユークリッド距離などを利用し、次に推奨されるメス動作ベクトルを実時間で医師に提示する機能。 平成26年度の試作により、(1)の難度が高く(手動で実施する場合の難度はそれほど高くはないが、半自動での実施、さらには全自動での実施難度はかなり高いことが理解された)、(2)と(3)の難度がそれに続き、(4)と(5)は比較的容易に実現できそうであることが理解された。 これらの試作により、平成26年度では、肝臓手術ナビゲーションの機能に欠落がないかどうかの確認、各機能の難易度やその達成必要度の評価、さらにGPUの高速並列計算機能に基づく各要素技術のリアルタイム性の達成度合などが調べられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が想定している肝臓手術ナビゲーションシステムの5要素技術について、現在までの達成度を評価する。 (1)CT撮影より得られた仮想肝臓と実肝臓の位置や姿勢、および形状を医師が合致させる機能:手動での試作版は完成した。種々の入力装置や出力画像を用いて、より簡便になるよう試作を続けている。今後は、画像処理の助けを借りて、できるところから自動化していく予定であるが、その難易度は高いものと想定される。(2)実肝臓の挙動を深度カメラで撮影し、その深度画像と仮想肝臓の深度画像(Zバッファ)が合致するように、仮想肝臓を平行移動や回転移動させたり、変形させたりする機能:コンピュータシミュレーションよりアルゴリズムの評価は完了し、肝臓手術に耐えうる位置と姿勢の精度を担保できることがわかった。したがって現在、実肝臓の動作や変形を高精度で計測できるデプスカメラを製作している。(3)肝臓形状の変化に伴い、3脈管や癌組織を変形させる機能:自動の試作版は完成し、その機能を評価したり、目的に応じてそれを改変したりしている。(4)変形後のZバッファのZ値より、肝臓・3脈管・癌組織の多面体頂点のZ座標を更新し、それらの多面体を個々に変形させる機能:自動の試作版は完成し、その機能を評価中である。(5)メス先端から3脈管および癌組織までの最近点を計算し、それらに基づいて医師に警告を発する機能:自動の試作版は完成したが、実際の肝臓変形切開手術をシミュレーションで体験しながら、癌組織への接近力や血管からの反発力を作り出す各種パラメータの調整をしている。 これらのことから、平成27年度の課題(4)と平成28年度の課題(5)についても、GPUに基づく機能の評価で一定の成果を上げた一方、平成26年度の課題であった(1)~(3)は試作版の製作に留まったことから、総合的に判断し上記の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、肝臓手術ナビゲーションシステムの要素技術を統合し、そのシステムの試作版を早期に完成させる。そして、まず研究室レベルで、医師がそのシステムの支援のもと、一連の肝臓変形切開手術を繰り返し実施する。そして、そのシステムの要素技術に欠けなどがないかどうか再度確認する。次に、個々の要素技術について、現在のレベルをどこまで高めれば、肝臓手術ナビゲーションシステムとして実用に耐えうるものになるかを確認する。そして、研究室レベルで経験を積んだのち、豚生体実験へと確認のステージを高める予定である。 さて、5要素技術中、最も製作が困難であった仮想肝臓と実肝臓の初期位置・姿勢・形状合わせについて、今年度は特に注力する。一般に、実際の手術日の1週間程度前に患者の肝臓をCT撮影し、そのとき得られたDICOMデータを仮想肝臓STLに変換する。そして、手術が始まったら直ちに、その仮想肝臓を実際の患者の肝臓と合致させなければならない。一般に、撮影時と手術時は1週間程度ずれているだけでなく、ベットに寝かされた患者の状況も撮影時と手術時では異なる。 すなわち、CT撮影の際は、癌組織などの手術対象物がきれいに撮影でき、かつCT装置の狭い内部に円滑に入れるような位置と姿勢で患者は寝かされる。一方、手術当日は、医師が各種の医用装置を利用して、手術対象物を安定に切開切除できる位置や姿勢で患者は寝かされる。したがって、患者の水平・垂直の角度なども異なることから、重力場における肝臓およびその周囲の臓器の配置などの関係より、仮想肝臓と実肝臓の初期形状・位置・姿勢は異なる。これらの理由より、手術の開始時に、医師が仮想肝臓と実肝臓の位置・姿勢・形状を高速・正確・簡単に合わせられる機能が必要となる。 本年度は、この機能の充実に焦点を当てて取り組み、続いて残りの機能の整備、および肝臓手術ナビゲーションシステムの試作化を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は初年度だったので、GPU搭載コンピュータをセットアップしたり、肝臓手術ナビゲーションを評価する実験装置を研究室に整えたりするのに予想以上に時間がかかった。これより、肝臓手術ナビゲーションシステムの要素技術を製作したり、その精度を高めたり評価したりする時間が足りなくなった。 このことから、平成26年度に予定していたGPUに基づく高速自動化ソフトウエア、およびCGに関するヒューマンインタフェースソフトウエアを開発する費用がそれほど支出されなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度において、肝臓手術ナビゲーションシステムの実験装置を研究室に整えることがほぼ完了した。これにより、平成27年度において、肝臓手術ナビゲーションシステムの要素技術を製作したり、その精度を高めたり評価したりする時間が十分に取れることから、それに関連したシステム・ハードウエア・ソフトウエアの開発を進展させることができる。ここでは特に、実肝臓と仮想肝臓の位置・姿勢、および形状を合致させるためのシステムを、手動から半自動化していきたいと考えている。また、肝臓手術ナビゲーションシステムに必要な機能の欠損の有無の確認、およびその試作化を医師の協力の下、引き続き実施する予定である。
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