研究課題/領域番号 |
26289074
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
元廣 友美 名古屋大学, グリーンモビリティ連携研究センター, 教授 (20394421)
|
研究分担者 |
杉本 憲昭 株式会社豊田中央研究所, 環境・エネルギー1部, 研究員 (60394714)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 蓄電 / コイル / 超電導 / MEMS / シリコン / 磁気エネルギー / 電気エネルギー / 極低温 |
研究実績の概要 |
(1)H26年度に、4インチSiウェハ表面に反応性スパッタ成膜+リフトオフ法で形成した 幅5μのNbN超電導薄膜コイルで、温度4.2Kで電流1mAのとき、発生磁場4.3μTを実測し、電流値から磁気エネルギ-貯蔵量1.41nJを得た。さらに、4インチSiウェハに幅5μ、深さ5μの螺旋状トレンチをBosh法により穿ち、反応性スパッタ法によるNbN薄膜形成、次いで無電解めっきによるNiPのシーディングの後、電解めっきによるCu薄膜を形成した後、化学機械研磨法により、トレンチ内を除き、Siウェハ表面のNbN層、Cu層を除去して、NbN超電導薄膜コイルを試作した。この試料で全体1200ターン(前期1100ターンとの記載を訂正)のうち、内側300ターンに相当する断線の無い部分で、4Kで臨界電流値10mA、発生磁場62μTを実測し、磁気エネルギ-貯蔵量490nJを得た。H27年度は、上記プロセスを改良した新たな試作を行った結果、前年度の20倍の磁気エネルギー貯蔵量9.9μJを得た。 (2)これらの結果を踏まえ、本試作構造の態様、すなわちトレンチ内壁に超電導薄膜が形 成され、ついでCuなどの常伝導体膜が形成されている態様について、特許出願を行うとともに、2015年11月16-18日に東京のタワーホール船堀で行われた、The 28th Int'lSymp. on Superconductivityにおいて、口答発表1件、ポスター発表1件を実施した。 (3)NbN膜に比べ300倍以上のエネルギー貯蔵が期待できる超電導材料YBa2Cu3O7-δの形成につき、湿式法Matal Organic Decomposition(MOD)法による基礎検討を開始した。求められるYBa2Cu3O7-δC軸配向膜は、まだ得られていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4インチSiウェハ上、幅7μ、深さ5μ、全長271mの螺旋状トレンチ内にNbN/Cu 2層構成の超電導コイルを試作した。今回は超電導特性への悪影響が懸念されるNiPシーディングを行わなずCuめっき層を形成した。懸念された化学機械研磨時のCuめっき層の剥離は起きなかった。しかし、今回も全体1200ターン中、内側の400ターン分の領域以外は断線があり今後のプロセス管理に課題が残った。この400ターン部分両端に電極をつけ、極低温冷凍機で冷却していくとCuの電気抵抗の温度依存性に対応し、電気抵抗が徐々に減少した。温度が14Kを割ると超電導により電気抵抗が消失したNbN側に電流が移ったことが示された。13Kから3.6Kまで7段階で、電流―電圧特性を測定すると、はじめ接触抵抗程度の5.5Ωの傾きをもつ直線に沿った。電圧をさらに増加させると、電流はこの直線から離れ、ピークを迎えた後、減少に転じ、さらに不連続に大幅に低下した。電流が直線から離れる値は冷却温度が低いほど大きく、3.6Kでは47mAに達した。これらは超電導コイルを流れる電流が臨界電流値を超えて常伝導状態に転移し、コイルに蓄えられていた磁束が一定量まとめて外れる現象と理解される。発生磁場測定値は、当然ながら電流に比例し、3.6Kにおける臨界電流値47mAでは、570μT、前年度の20倍の磁気エネルギー貯蔵量9.9μJを得た。 トレンチ断面に形成できたNbN超電導薄膜の断面積を勘案すると、このエネルギー貯蔵量はNbN薄膜コイルに臨界電流値が流れた場合の磁気エネルギー貯蔵量の理論予測値にほぼ等しかった。まだ少ないNbN断面積を増加させる手段や、臨界電流値がNbNの300倍を超える酸化物高温超電導体の適用をこころみるなど、乗り越える課題はあるにせよ、研究開発の方向性はクリアなことから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
H27年度に得られたNbNコイルの磁気エネルギー貯蔵量を達成した臨界電流値は、トレンチ内に堆積されたNbN薄膜の断面線を考慮すると、ほぼ臨界電流密度に等しい。これは、このコイル系が、エネルギー貯蔵を行うことについては、原理実証をしたとも言える。しかし、現状は、NbN薄膜は、側面部は、堆積粒子の斜め入射により成長は遅く、ほとんどをトレンチの底の部分が担っており、面積比では、常伝導のCuのほうが圧倒的に大きい。磁気エネルギー貯蔵量を増加させるためには、この面積比を逆転させる必要がある。このため、トレンチ側面の堆積粒子の斜め入射条件を緩和させる方策が必要となる。そこで、Bosh法によるトレンチ形成時、繰り返し行われる反応性イオンエッチング時のプロセス条件を変化させ、堆積粒子入射方向に向けてV字型、あるいは台形型のトレンチの形成を試みる。 湿式法による超電導材料のトレンチ埋め込みは、上記の課題を解決すると思われる。高温超電導材料のYBa2Cu3O7-δについても、既にMOD法による形成は試みられているが、高い超電導特性を発現させるには、配向性が重要であり、多くの研究がサファイア等の単結晶基板上の成長について[行われている。Si基板については、YBa2Cu3O7-δを直接成長させると、成長温度でのSiの拡散が起こり、超電導特性が低下するため、何らかのバッファー層の挿入不可欠である。CeO2をバッファー層とした研究が散見されるので、CeO2を中心に検討を進めるが、CeO2層の形成法や膜厚も含め、多くの条件設定について検討していく必要がある。CeO2バッファ層の膜厚や熱処理温度を変えてSi(100)ウェハ上、およびトレンチ内狭隘空間を模したSi(100)ウェハ2枚で構成した楔状隙間での上記薄膜の形成を試みた。現段階ではCu組成が小さいYBa4Cu3O7-δ相が得られ配向性も十分ではない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2015年度 The 28th InternationalSymposium on Superconductivity (2015年11月15日-18日、東京)での大学院生1名(N. Iguchi)の発表について、研究代表者も参加する予定であったが、別テーマ(JST-ALCA関連)の大学院生3名が発表するThe 25th International Photovoltaic Science and Engineering Conference(2015年11月15日-20日、韓国釜山)が日程が重なり、プログラム上の発表日もかさなったため、前者の国際会議の登録、出席を行わなかったため。また、酸化物高温超電導体の湿式成膜法検討において、期待した組成・配向性の薄膜がなかなかえられず、資材購入のスケジュールがずれたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
H28年度も国際会議での発表を行うとともに、論文発表も行う。また、断面形状の異なるトレンチの試作開発や、酸化物高温超電導体の湿式成膜法検討も加速するため、有効に使う予定。
|