二つの連続波レーザー光を半導体多重量子井戸に照射することで発生する連続波テラヘルツ電磁波に関する研究において、励起子の果たす役割について研究を行っており、これまでは励起条件に関する検討を行ってきた。二つのレーザー光の周波数差に相当するテラヘルツ電磁波が発生する差周波混合を引き起こす媒体に半導体の多重量子井戸を用い、励起子エネルギーに共鳴的にレーザー光を照射し、電磁波を発生させた。実験はpin構造のGaAs/AlAs多重量子井戸であり、室温で測定を行った。これまでに励起子共鳴励起条件下でテラヘルツ電磁波が発生することや励起子振動子強度などの効果を明らかにしていた。 本来の最終年度に実施予定であった実験を2017年度に繰り越して行った。これまでの実験において、軽い正孔励起子エネルギーで電磁波強度が最大になることがわかっていたが、その明確な理由を明にするために、偏光特性を測定した。重い正孔と軽い正孔ではブロッホ関数の形が異なることを利用するために、GaAs/AlAs多重量子井戸の端面から電磁波が放射される光学配置で測定を行った。量子井戸の面に垂直方向からレーザー光を入射し、端面から放射される電磁波の偏光特性を観測した結果、正孔のブロッホ関数からはまったく予想できない形状の偏光特性となった。様々な検討を行ったところ、GaAsを構成するガリウムとヒ素の原子間の結合方向と関係している可能性が得られた。今後は、この成果をさらに発展させていく予定である。
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