研究課題/領域番号 |
26289092
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
鄭 旭光 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40236063)
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研究分担者 |
真木 一 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10359945)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 新奇強誘電性 / 同位体効果 / 量子原子効果 |
研究実績の概要 |
2005年以降我々は水酸塩化物シリーズの幾何学的フラストレーション磁性を発見し、最近これら水酸塩化物において磁気・格子と誘電性の相関が普遍的に存在することを見出し、水酸塩化物の中から六方晶系のCo2(OD)3ClとCo2(OD)3Br両物質で新奇マルチフェロ的強誘電性を発見した(Phys. Rev. B 87, 174102 1-6 (2013))。水素の同位体効果からこの新奇マルチフェロ強誘電性が水素原子の量子原子効果に起因していると推察し、基盤B(H26-28)「新奇量子原子効果に起因する新型マルチフェロ強誘電体の開発と機構解明」では多結晶体水酸塩化物を使用し、磁性、比熱、誘電率及び強誘電性の評価、放射光X線、中性子構造測定等の複数手段を用いて新型マルチフェロ強誘電体の開発と機構解明を行った。 上記多方角的な実験によって水素の量子原子効果が新奇強誘電性をもたらしたという確固たる証拠を得ている。まず、ミュオンスピン緩和(muSR)により重水素の核磁気を通して重水素のダイナミックスを調べたところ、Co2(OD)3Clで重水素の核磁場の時間変動率が強誘電転移に向ってダイナミックな変動から著しく緩慢になることが判明した。NMR実験でもこの結果が支持された。一方、ラマン分光測定は上記相転移についてCo2(OH)3Cl とCo2(OD)3Clでの対照的な結果を得た。重水素化したCo2(OD)3Cl では強誘電転移に際し新しいフォノン群が現れるのに対し、Co2(OH)3Clでは相転移が不完全でかつより低い温度で起こっていることが判明した。更に粉末中性子回折により、Co2(OD)3Cl では強誘電転移温度230K近傍で構造相転移の可能性が示唆されることが判明した。低温構造では酸素重水素の対称性が下がり強誘電的自発分極を生み出せる。これにより、水酸塩化物での新奇強誘電性が説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題「新奇量子原子効果に起因する新型マルチフェロ強誘電体の開発と機構解明」の計画に沿って、磁性、比熱、誘電率及び強誘電性の評価、放射光X線、中性子構造測定等の複数手段を用いて実施した結果、新型マルチフェロ強誘電体の機構解明という主要目的はほぼ達成できた。
一方、上記メカニズム解明の結果、新型マルチフェロ強誘電体の開発指針も得つつある。 以上の理由により、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、純良単結晶を成長させ、精密ラマン分光測定及び単結晶中性子散乱実験を中心に量子原子挙動を徹底解明し、水酸塩化物での水素の量子挙動の物理を樹立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
50,000円の繰越ですが、注文した試薬の納入が遅れたため、生じました。翌年度に合わせて試薬の購入にあてます。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度に合わせて試薬の購入にあてます。
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